私は、なんのために働いているのだろう。
日々の業務に追われ、9時から21時まで働いても一向に処理は終わらない。
TODOリストなんてあるようで、ないようなモノになっている。
そんな日々が続き、私の心は荒んでいくばかりだった。

◎          ◎

「おかえり、今日もお疲れさま」
自宅に帰ると、旦那は笑顔で迎え入れてくれる。
毎日の私の癒し。
旦那を見ると、職場にいた私とは違う、素の私でいられる。
1日12時間働いた身体に、旦那の優しい言葉と料理が染み渡る。

いつもであれば、それでリセットされ、頑張れていた。
しかし、ふと思う。
私は、なんのために働いているのだろうと。

旦那との結婚生活を続けるために働いているのか、それは違う。
別に、旦那は私が働く事を求めてはいない。
私は結婚しても働きたいと言って、旦那を説得した。

なんでだったっけ……?
もしかして目的を持たないまま働いているのかもしれない、その現状に嫌気がした。

自宅にいても仕事のことばかり考えてしまう。
旦那を見ても、リセットされないことが増えてしまった。
私は悶々としながらも、翌日は休みなので存分に睡眠を取ることにした。

◎          ◎

次の日の朝、私は眩しい陽の光で目覚めた。
「今日はモーニングにいこうか」
そう言って、旦那が私を起こしてきた。
休みの日なのに早く起こされ、ムッとしたものの、旦那の言う通りに支度を済ませて、車に乗った。

そして1時間ほど経って到着した場所は、私が大学時代に過ごした街にある、とある喫茶店だった。
「ここのモーニングが人気だって、知ってた?」
「ううん、知らなかった。てか、こんなところにカフェあったんだ」

旦那に連れられ入った喫茶店は、心地がいいジャズが流れており、陽の光が優しく差し込む、素敵なお店だった。
数種類あるコーヒーから自分好みの味を選び、店員さんは一杯ずつ丁寧に、私たちの目の前で淹れてくれた。
そのコーヒーを飲みながら、分厚いトーストをいただく。
ゆっくりと流れていく時間が心地良いと思った。
そして思い出したのは、大学時代に毎朝モーニングを食べていたことだった。

◎          ◎

大学時代は授業とバイト、遊びに行ったりと、今とあまり変わらないくらい忙しい日々を送っていたことを思い出す。
遊んだ後、深夜に帰って来たとしても、必ず早起きをして近所の喫茶店に行っていた。
朝にコーヒーを飲みながら過ごす、この時間がたまらなく好きだった。

ぽつりぽつりと、旦那に向かって昔話を始めた。
学生時代の話をしていく中で、自分自身の振り返りをしたのだ。
すると自分の中で、今の職業に就きたかったのかをふと思い出した。
私は誰かを支える仕事がしたい、人の手助けをしたかったのだ。

私はちゃんと目的があって、今働いているんだ。
そう思うと、明日からも頑張ろうと思える自分がいた。
「なんか、スッキリした顔になったね」
そう旦那に言われて、私は笑顔で頷いた。

その後コーヒーを飲み終え、私は旦那に運転を任せつつ、自分が過ごしてきた場所を巡った。
思い出のある場所に行くことで、その時に思った感情が蘇ってきて少し泣きそうになった。
自分がなりたかった自分に、少しずつだけど近づけていると実感できた。

また働く理由がわからなくなったら、ここに来たらいい。
そう思える機会だった。