トースト、ゆで卵、コーヒー。ここからわたしの旅が始まった。
東京から夜行バスに揺られて7時間。わたしは名古屋に降り立った。大学2年の春休み、実家暮らしだったわたしは、1ヶ月くらい地元を飛び出して冒険しようと思い立った。そこでわたしが選んだのは、ゲストハウスのヘルパーという過ごし方。
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去年の秋ごろ友達に誘われゲストハウスに行き、その魅力に魅了されどハマりした。初めましての旅人たちが、集まり、話し、飲み、一緒に夜を過ごす。一期一会の出会いが生まれるゲストハウスという場所の深みにもっともっと入り込んでみたいと思った。そこで調べていくうちに、ゲストハウスにはヘルパースタッフという存在がいることを知った。ヘルパースタッフとは、滞在の宿泊料を無料にしてもらう代わりに、ベッドメイキングや宿の掃除などを手伝うという制度で働くスタッフのことである。これを知ったわたしは、「やりたい!」と心浮き立ち、すぐに募集しているゲストハウスを探した。
日本全国たくさんのゲストハウスがあるなかで、ここで働いてみたい!と思ったのは、三重県の伊勢市にあるゲストハウス。なぜここに決めたのか、を正確に言葉にすることは難しいが、第一に伊勢神宮に行ってみたかったから。そして第二に、ゲストハウスの内装がおしゃれでその雰囲気に心掴まれたからである。ここにしようと決め、すぐその日のうちに連絡をして、受け入れてもらうことを了承していただいた。あとでそのメールを見返したら、1月1日に「明けましておめでとうございます」から始まるメールを送っていた。
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大学が春休みに入り、家から出て冒険を始める時が来た。それまで1人で県外に行くことはなかったので、楽しみな気持ちもありながら内心不安でドキドキしていた。ゲストハウスがあるのは伊勢だったが、少し一人旅をしつつ、他のゲストハウスにも行ってみようと思い、一人旅を始めた。もちろん夜行バスに乗ることも初めて。乗り場はここであっているだろうか、不安な気持ちでいっぱいのままバスタ新宿からバスに乗車。無事に乗れた安心感と眠気でバスの中で寝てしまった。そして朝、無事に名古屋に到着した。名古屋に降り立ったわたしは、これからどんな1ヶ月が待っているだろうとドキドキワクワク。まだ朝早いしどうしようかと考えている中、名古屋といえばモーニングだと思い立ち、モーニングが食べられるところを探した。
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また、熱田神宮にも行ってみたかったので、熱田神宮の近くの喫茶店を見つけ、向かった。その喫茶店は建物の2階にあり中が見えなかったため、どんな感じのお店だろうかとかすかに不安を抱えながら、お店に。入ってみると中には、出勤前のサラリーマン、50代くらいの女性のグループ、1人で来ているおじさん。地元の人ばかりで、大きなバックパックを背負って入ってきたわたしはまるで場違い。迷惑でないだろうか、そんな思いでいっぱいになりながら、モーニングを注文。出てきたのは、トースト、ゆで卵、コーヒー。本当にゆで卵が出てくるんだとぼんやりと考えながら、食べてゆく。コーヒーを啜る。ストーブの熱が広がる暖かい空間で、モーニングを食べながら、テレビを眺める。ひょんなきっかけでお店のお母さんとお話しする。「どこから来たの?」「どこに行くの?」。そしてお店を出る時には「行ってらっしゃい」と送り出してもらう。
モーニングという文化、土地、人に入り込み、ともに朝ごはんの時間を過ごす。初めての1人旅に緊張していたわたしの心がほぐれていく。これから始まる旅は、きっといい旅になる。