ある朝、突然ご飯が食べれなくなった。小学5年生の時だった。食卓に出された食べ物を胃が受け付けなくなった。どうにかして食べようにも匂いを嗅ぐだけでも吐き気がして、遂には食卓のご飯を見るだけでも気持ち悪くなってしまった。どうしてそうなったか分からない。別段、無理なダイエットをしていた訳でも無いし、割と自由に子ども時代を過ごしていたから凄いストレスを抱えていた、という訳でも無いと思う。もしかしたら無意識の内に何か鬱屈とした何かがあったのかもしれないが今となっては真相は闇の中である。それくらい本当に急な事だったのだ。

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ご飯を拒否するのは朝だけに限らず、昼、夜とご飯が食べれない現象は起きていて、中々しんどかったのを今でも覚えている。原因も分からなければ、治し方もよく分からなかった。しかし、家族は心配しながらも病院に行って厳密な診察に私を連れては行かなかったから、日がな訪れる吐き気と嘔吐にひたすら耐えるしか幼い自分には出来る事が無かった。苦しくも悩ましい期間を乗り越えて、なんだかんだこの症状は時間と共に改善した。晩ご飯が食べられるようになり、お昼は吐き気はあるものの何とか食べれるようになり、吐く事は少なくなった。

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しかし、朝ごはんだけは中々食べられなかった。朝起きてご飯を食べたいという意欲は湧かないし、目の前に出されたご飯を見ると気持ち悪くなってトイレに駆け込んでいた。朝なので何も出ない、出るのは胃液だけだ。ひとしきりゲェゲェして不快感を拭えないまままたリビングに戻る。朝ごはんは1日のパワーの源なんて言われるくらい大切な栄養源だ。だから、何かしら体に入れたいのだが何も入らない。出されたご飯の1割も食べる事が出来なかった。ひと口かじるパンとコーヒーもしくはヤクルトが自分の朝食の全てだった。

学生時代はそうやって過ごし、大人になってからはそんな朝のストレスを回避する為に食べ無い事が当たり前となった。滅多な事で吐き気が出る事は無くなった今は、平日は飲むヨーグルトを飲んでから出勤したり、休みの日に気が向いたら少しだけ食べてみたりと朝食を少しずつ取るようにしている。が、まだまだ時間はかかりそうだ。

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そんな自分だからこそ朝ごはんへの憧れがある。それはある意味ちょっとした夢かもしれない。他人からしたら小さくてなんとも言えない夢だと思う。それでも夢は夢だ。もし自分が朝ごはんを抵抗なく普通に食べれるようになったならちゃんとしたモーニングタイムを満喫したいと思っているのだ。お店に行って朝ごはんらしいメニューを机いっぱいに並べて心ゆくまで美味しく頂きたい。きつね色焼き目の付いた食パンにバターを塗って食べたり、コーヒーやオレンジジュースをゴクゴク味わって飲みたい。カリカリに焼いたベーコンもいいし、スクランブルエッグなんてのも良い。家で自分で作って食べるのだって良い。少し早起きしてお味噌汁と焼き鮭とあと少しの副菜を添えて白米と一緒に口いっぱいに頬張るのだ。「美味しい」「幸せ」なんて思いながら朝食を食べたい。

そして外を眺めて「今日は良い天気だなぁ」なんて空を見ながら「今日は何しようかな」と胸を膨らませて1日の予定を組むのだ。それが自分の朝ごはんの夢だ。今までの自分には朝ごはんいい思い出が無い。だからこそ、これからの人生で朝ごはんの良い思い出を作っていきたい。