私は常に、スマホと共に生活している。
朝はスマホのアラームで目を覚ます。今日の天気やスケジュールを確認しながらご飯を食べる。新作コスメの紹介を聞き流しながらメイクをする。身支度を終えて家を出たらイヤホンを装着して、お気に入りの音楽を流しながらご機嫌に歩く。
通知がきたらすぐにメールアプリを確認する。メモアプリに大事なことを書き留める。作業が終わればToDoリストから項目を減らす。暇な時間はSNSを開いて、世間を騒がす話題に目を通す。楽しい話題に目を輝かせ、悲しい話題に目を伏せる。スマホの画面が反射して、私の表情を映している。
帰宅したら馴染みのレシピサイトを開いて晩御飯の用意をする。お風呂に入る時、一人がさみしいから賑やかな動画を流して気を紛らわす。寝る時は睡眠記録アプリを起動して、おやすみなさい。
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私の手の中、ポケットの中、カバンの中。常に私のそばにいる。スマホは私の相棒だ。
そんな私が唯一スマホを手放すのは、素敵なスイーツを食べる時。
甘いものが何よりも好きだ。コンビニやスーパーで売っているお菓子も、ちょっと敷居の高いケーキ屋さんのケーキも、近所に最近できた洋菓子屋さんの焼き菓子も、ファミレスで食べるパフェだって。甘いものなら何でも好き。
休日、ずっと気になっていたカフェへ向かう。
ショーケースから取り出されて運ばれてきた輝かしいスイーツを目の前に、まずは写真を数枚。その甘やかな魅力を画像として留めるのはスマホの大事な仕事。
そして、その味と香り、柔らかさを知るのは私の仕事だ。
スマホを机に伏せる。フォークを手に取り、スポンジに差し込む。
日々情報の海に身を沈める中で、可愛らしいスイーツを口に入れる時だけは。私が受け取るものはスポンジ、クリーム、フルーツの欠片、そんな舌の上に収まるたった一口の情報。
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甘いものは健康に悪い。そんなの食べたら肌が荒れちゃう、太っちゃう。白玉のような肌が至高。シンデレラ体重を目指そう。あの人気韓国アイドルのように、人気インフルエンサーのように綺麗になろう!
多様性を受け入れる世の中になった。様々な色を認める社会へ、確かに変化の流れを感じる。しかし、「綺麗」が正義であるどうしようもない事実が、未だ変わっていないような気がする。
綺麗になりたいな。そんな気持ちは私も常に持っている。でもなぜ綺麗になりたいのか。私のなりたい「綺麗」は何?くっきり二重、シュッとした顎、存在感の薄い鼻、丸く柔らかな頬。もしくは薄い身体、形の整った胸、細いウエスト、引き締まった足、ぴんと伸びた背筋。
それとも、このショートケーキを輝かせる、鮮やかな苺?
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甘酸っぱい苺を口の中に放り込めば、先程までの雑音が遠くに去っていく。綺麗は正義?いいえ、美味しいが正義!私の中の天使がクルクルと舞い踊っている。
スマホは相棒。けれど時に私の軸を狂わせる。
溢れ続ける情報を全て飲み込まないように、全てが私の意見だと錯覚しないように、時にはスマホを置いて、リセットが必要。
私がスマホを手放すのは、そんな甘々なリフレッシュを必要とする時。