いつの頃からか忘れてしまったけれど、私は写真が得意ではない。どちらかと言えば被写体になるのは苦手だ。小さい頃に撮られた写真が納められたアルバムには、屈託のない笑顔をカメラに向ける私の姿がたくさん残されている。
それが小学校に上がった前後の写真になるとどれも顔が曇っていて顔を隠しているものばかりで、引っ込み思案の性格が反映されている気がする。
高学年になってくるとプリクラを撮るクラスメイトも増えてプリクラ帳を見せ合ったり、撮った写真を交換するのが流行っていてたけれど私も周囲の友達も好き好んで撮るようなタイプではなかったので、写真になじめないまま学生時代を過ごしていた。なので写真を撮るのといえば学生証の撮影や集合写真の時だけ。
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普段から写真を撮りなれていないせいなのか、撮影される顔はいつもどこかぶすっとしていて、「この顔の身分証で一年過ごすのかぁ」と憂鬱な気持ちになったものだ。家庭でも成長するにつれて写真を撮影する機会が減っていった事もあり、今でも不意にカメラを向けられると必要以上に構えてしまい、顔も硬くなってしまう。
あまりにカチコチになってしまう私の様子を見た友人に「もうちょっと肩の力を抜いてリラックスして撮ってもらったら?」と苦笑いされる事もあった。
卒業写真や履歴書に乗せる写真、免許更新や社員証作成の際撮影された自分の顔を見る度に何とも言えない残念な気持ちになる。オシャレやメイクが苦手なのも、写真嫌いに拍車をかけている気がする。そんな感じなのでスマートフォンが普及してSNSが浸透した今でも写真を載せるようなアプリは見る専門に留めているし、自分から進んでカメラを起動する事もない。20代の女性としては珍しいほど写真とは無縁の人間だった。我が家に仔猫がやってくるまでは。
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雨の日に小さな猫をどうにも放っておけず家に連れて帰り最初は里親を新しく見つけるつもりだったのが私自身が猫のトリコになってしまい、そのまま我が家で育てることになった。生き物を飼うこと自体が初めてだったのでインターネットで調べたり動物病院で先生にアドバイスを貰ったりしながら手探りで始まった。
最初の頃はお腹が空いていて大人しかった仔猫も家に慣れてくるにつれてあちこち飛び回り冒険する様になって、時には「そんなところ行っちゃダメ!」とびっくりするような場所に平気で行ってしまうので目が離せない。自由気ままで、構ってほしくない時に触ると容赦なく猫パンチが飛んでくる。そんなマイペースな猫のことが可愛くて仕方がない。スマホのカメラロールはあっという間に愛猫の写真で埋め尽くされて、他人から見たら「その写真と前の写真何が違うの?」と言われてしまうだろうと思うものもたくさんあるけれど、どの写真も可愛くて消そうという気にならない。どれもベストショットなのだ。
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疲れた時や悲しい時にその写真を見るだけで気持ちがほぐれて、もう少しだけ頑張れるような気持ちになる。きっと小さな子供のいるお母さんたちはこんな気持ちでカメラを向けているのかな、と独身で家庭に縁のない私もなんとなく分かるような気がする。子ども本人だけではなく写真を撮影した側にこそ、見返した時に強いエネルギーを与えてくれるものなんじゃないかと愛猫の写真を見て今日もにやけてしまう私は思うのだ。