「……眠れない」とぼやいたのは、2023年も終わりが近づいてきた12月のとある日の朝4時。寝室の明かりを消し、スマホも手放し、数時間が経過した時のことだった。室温も快適、枕の高さもマットレスの硬さも快適。でも、眠れない。そんな日が、かれこれ2週間ほど続いている。これがいわゆる、入眠障害かもしれない。病院で睡眠導入剤を処方してもらうべきなのはわかっている。でも、私は気のせいで済ませたいと思っていた。

2年ほど前まで、私は入眠障害と中途覚醒のため心療内科で睡眠導入剤をもらっていた。入眠障害とは、いわゆる寝付けない状態が続いていることで、短時間でぐっと効く短期型の睡眠導入剤を服薬していた。そして、中途覚醒では1~3時間程度で目が覚めてしまい、朝まで眠れない症状があった。この症状に対して、中期型の睡眠導入剤を服薬していた。2種類の薬を服薬し、どうにかこうにか眠れる状態だった。

◎          ◎

そんな私だったが、2022年に入り睡眠導入剤減薬を開始し、2023年の春、完全に手放すことに成功した。減薬を始めるきっかけは、処方上限まで飲んでも眠れないことだった。「眠れないのに減薬?」と不思議に思う人もいるだろう。私も、眠れない状態だった時にはこの後減薬を始めるとは思っていなかった。

2種類の睡眠導入剤を服薬し、どうにかこうにか眠れていた私だったが、ついにそれでも眠れない日が続くようになった。担当医に「薬を増やしてほしい」と相談したものの、「今の量が処方できる上限なので……」と言われてしまった。担当医からは、「薬に頼りすぎず、日々の生活で改善できることをちょっとずつ頑張っていきましょう」と提案された。

確かに私は、睡眠導入剤に頼りすぎていた。ぐちゃぐちゃの生活リズムでも、「薬を飲めば眠れるし……」と思い生活リズムの改善を諦めていた。さらに、「薬が効くまでどうせ眠れないから……」と、効果が現れるまでの時間に明かりをつけて作業していることもあった。睡眠導入剤の効果で無理やり脳のスイッチをオフにする生活を送っていたのだ。

◎          ◎

だが、とうとう薬の力だけではどうにもならなくなった。仕方なく私は、生活リズムや睡眠前の習慣を改善することにした。すると、ほんの少しだが効果を感じるようになってきた。それもそのはず、今までの生活が無茶苦茶過ぎたのだ……。ちょっとの改善で効果を感じた私は、できる範囲の努力をするようになった。

そして、この調子なら、「薬の量を減らせるのではないか!?」と思い、担当医に相談した。結果、担当医からの許可もおり少しずつ減薬を始めることになった。中学生の頃から、増える一方だった薬を22歳になり始めて減らすことになった。最初のうちは、少し減らしても普通に眠ることができ快適に過ごせていた。しかし、この後大きな壁が2度立ちはだかる。

◎          ◎

1度目の壁は、睡眠導入剤の種類を1種類にするときだった。短期型と中期型の2種類を飲んでいた私は、先に短期型をやめることになった。短期型をやめると、短期型の睡眠導入剤の特徴の、急に意識が保てなくなるという感覚がなくなり、どう眠りにつくのかがわからず、苦戦した。ゆっくりと意識を飛ばす感覚になれるまで時間を要した。

そして、2度目の壁は、半錠の壁だった。1度目の壁を乗り越え、中期型のみの服薬でも眠れるようになった私は、順調に減薬を進めていた。中期型の一番量の少ない錠剤のさらに半錠にしたものでも眠れるようになっていた。そして、ついにその半錠もやめ、睡眠導入剤を完全にやめる時が来た。……が、私はここで、薬を飲まないことが怖くなった。「飲んでいるから眠れる」と今まで自己暗示をかけてきた。だから、「飲まないと眠れない」という不安に襲われた。担当医とも相談しながら、1歩進んではまた1歩下がるということを3か月ほど繰り返しながらようやく私は睡眠導入剤を手放せた。

◎          ◎

しかし今、再び眠れなくなっている。薬の力を借りる必要性を感じてはいる。でも、睡眠導入剤に再び頼ることを少し怖く感じている。睡眠導入剤をやめると決めてから完全に手放せるまでに8か月ほどかかった。また、薬に頼るとやめる時が大変なのではないかと不安になっている。

しかし、このままでは社会生活に支障が出るも時間の問題だ。だから勇気をもって、年明けの定期受診で今の不安な気持ちも含めて素直に担当医に相談してみようと思う。もし、また薬に頼ることになっても、薬任せにせず、程よい距離感で付き合っていこうと思う。