「それならなつめに!」
「なつめちゃんは天使!」
中高生の頃、同級生に言われ、私はよくリーダーを任されたり、分からない問題を教える役に回ったりすることが多かった。自分で言うのもなんだが、私は割と周りの人から信頼を得ているように思う。
でも、小学生の時、私の周りには誰もいなかった。

◎          ◎

小学3年生の時、学級代表に立候補した。私ともう一人の女の子で多数決になった結果、私は落選した。その子は不真面目で、おっちょこちょいだった。ただ仲が良いからと言う理由で選ばれたような感じだった。
成績表の先生からのコメント欄にも「もう少し優しさを持ちましょう」と書かれた。その頃の私はかなり刺々していた。口調も「~してや」「~じゃないん」など強めだった。小学校なんて楽しくなかったから。

小学生によくある、いわゆるウザがらみにイライラした。メガネっ子、なつめ菌がつく、などからかわれて腹が立った。グループを作る時、約束していた子が別の子と組んでいて傷ついた。理不尽なルールがまかり通っている無邪気さが許せなかった。私の中にどろどろした黒いものが溜まって、自分で浄化することもできなかった私は、それを意図的に言葉に乗せた。

明らかに私より問題児な子は苦笑いをしながら流すのに、静かに授業を受けて、先生の言うことをよく聞き、テストはほとんど満点を取る私には、本当に怒っている目つきで注意するのも納得できなかった。静かに反発するように、私は言葉に棘を乗せ続けた。

◎          ◎

ある日、母にその愚痴を漏らした。母は言った。
「確かに同級生にはイライラするし、先生も理不尽かもしれないけどさ。それに対抗した時点でなつめも同じじゃない?」
「そんなの分かってるよ。でも、どうせあの先生ももうすぐ担任終わるし、あんな同級生には分かんないよ、私が同じことしてるなんて。だって頭悪いもん。私にはずっと我慢ばっかりして自分だけ正しくあるよりやられた分やり返したい。被害者でいるのはもううんざり」
「復讐してやりたかったらあくまで自分は正しくあること。そしたら関係のない周りの人は正しい側、つまりなつめについてくれる。結局正義は勝つ!だよ。」
半信半疑で母の目見る私に、続けて言った。
「もちろん、すぐには効果でないよ。なつめが徳を積んで周りがそれに気づいてくれるまで時間はかかる。でも長い時間で得た信頼ってかなり強いから。狡賢く計算高く生きなさい」
「ねえ」
「なに?」
「ママって悪女って言われたことない?」
母はそれに意味深に微笑んだ。

◎          ◎

それから私立中学へと進み、人間関係がリセットされた私は騙されたつもりで、したたかに日々を送った。明らかな悪意を清らかな笑顔で流し、周りがどんなにサボっても自分だけは真面目に取り組み続けた。
結果、私は信頼を得た。強く優しく、どこまでも清らかに天使のように振る舞う私は、狡賢さと、計算高さでできている。こんな私は悪女だろうか。母は結局、悪女と言われたことがあるのだろうか。わからないけど、たとえ悪いといわれても、私は天使な悪女でい続けるのだろう。