私が初めて東京に行ったのは5歳の頃だと思っていた。

ディズニーがあるのは東京ではないと知ったのはいつだっただろうか。

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中学3年生の夏、私は、いや私たちの学年は修学旅行で本当に東京に来た。一つ上の先輩までは千葉だったのに、と誰もが思っていたと思う。

旅行より、学問を修める方に全振りしたようなスケジュール。それでも私はその旅行の間この上なく幸せで、寂しかった。 

私のただ1人の親友と、私の初恋の相手を含む数人が、修学旅行が終わってすぐ、半年間の留学に行くことになっていたから。そして、修学旅行の間、その彼がクラスが違うのにわざわざ私のところへとひょこひょこ抜け出してきて、色々話しかけてくれたから。私は自分からはなにもできなかった。好きバレするのが怖かったし、恥ずかしかったから。

自分の弱みを握られるようで。上手くいかなかった時に周りからもてはやされると思った。相手から拒絶されるのが怖かった。だから、親友を除いて誰にも打ち明けたことはなかった、中学生の誰にも言わないからなんて塵ほども信じていなかった。

しのぶれどの百人一首のような状態には絶対になりたくなかった。だから十分幸せだった。彼が気ままにやってきては少しお喋りをして、誰かに呼ばれるとじゃあと去っていくだけで。

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夜、2人部屋で一緒になった女の子が恋バナを強要してきた。当然のらりくらりとかわすはずだったのに話してしまった。修学旅行マジックだろうか。その子は特別仲のいい子というわけでもなかった。

どちらかと言うと私の親友と仲が良くて、だから私も仲良くしようと思っていただけだった。その子は良くも悪くもはっきりしていて、時々物言いがキツくなるように感じて少し怖いかもと思っていたくらいだ。

話してみると意外とお茶目で乙女なところが知れたからかもしれない。その子は私の好きな人を当てると言った。尋問の結果、とうとうイニシャルがわかって、あとはそのイニシャルに当てはまる人は誰かという段階、なぜか彼女はNとMのイニシャルの2人で悩んでいた。

私が突っ込んで間違いに気づいて、2人で笑い合った。いつから、なんで、どこが、告白しないの?あいつ留学いっちゃうよ?と矢継ぎ早に聞かれた。その一つ一つに自分でもびっくりするくらい素直に答えた。

「なつめちゃん、連絡先交換聞こ!そうしたら海外に行ってもやりとりできる!向こうの女の子に取られていいの⁉︎」

「よくない」

「でしょ!」

「でもどうやって聞けばいいの?好きバレとかしたくないし。さりげなくなんて無理!」

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しょうがないなというように、ひとつため息をついて、その子は一生懸命レクチャーというかゴリ押しをしてくれた。とりあえずなんでもいいから勇気を出せ。この際口実なんて使えない。クラスも違うわけだし。強いて言えば親友が留学行くからもしも連絡つかなかった時用とか言えばいいんじゃない?

「それよりも!なつめちゃんのメールは推敲されたお堅い文すぎる!もっとラフに気楽に送らないと」

「そんなこと言われても文字ってずっと残るし、対面より誤解生みやすいしそんな気楽になんて送れないよ、、」

「いいの!友達なんだから。内容が変えられないんだったら語尾だけでも変えて!“〜”とか、小さいあいうえおでかわいくするとか、絵文字とか。いい⁉︎」

分かったと言うしかなかった。でも、この強引さを私は不思議と楽しいと思った。

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 「なつめちゃんはおとしやかだからその人のタイプだと思う」と何度も言ってくれた。一通り話が落ち着いた時「もしかしてだけど、おしとやかのこと?」と言うと、それまで攻めの一手だった彼女はあっという間に顔を赤くして、もっと早く言ってよとベットの上でバタバタした。

「だって笑。あんまりずっと一生懸命話してくれるし、何回も言うからそれも若者言葉的なわざとなのかなって笑」

「それをするのはトトロのめいちゃんだけだって!」

「とうろもこし的な?」

「そうだよぉ!」

思い切り笑い合った。

「そう言えばYちゃんも同じ部活に好きな人いるんだよね?Yちゃんこそ告白しないの?」

「それは、、」

攻めが逆転した瞬間だった。

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結局、私は連絡先を聞くこと、彼女は部活のためという口実を作って遊びに誘うことを約束しあって眠った。

私が勇気を出したのは本当に最後、広島に帰って、解散の合図が出された時だった。携帯に連絡先を打ってもらっている間、ドキドキと恥ずかしさと嬉しさとで頭がパンクしそうだった

帰り道ではもう携帯使っちゃダメよと言っていた担任の先生がチラリとこちらを見て、微笑ましそうににこりと笑った。
家に帰って真っ先にYちゃんになれないメールを送った。

「ありがとう!おかげさまで連絡先聞けました〜」。