「なんだか気持ち悪いね、そういうの。まるで小さな村みたいだ。それも閉鎖的なね

ふう、と煙草の煙を吐き出しながら、電話越しの彼は私にそう冷たく言い放った。時間は夜中の2時。こんな時間まで起きているのは、今夜が金曜日で、明日はお互い休みだからだ。

「そうは言ってもさ、なかなかすぐにはどうしようもできないんだよ。繋がりが強いというか、みんなアットホームな雰囲気というか…」

そこまで言って、私は次に繋がる言葉が見つからなかった。これ以上言葉を続ければ、私の悩みの種である『その人たち』を庇うことになるからだ。

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「知ってる?ブラック企業の求人には、大抵『アットホームな職場』って書いてあるの。まぁ、全部が全部とは言えないし、今回の件は職場に関することではないけどね。アットホームっていうのは、元からそこにいる人たちにとっては居心地がいい環境であって、新しくそこに入っていく人たちには地獄でしかないんだよ。それを自分も嫌だというほどに味わったわけでしょ?なら、そこをフォローするのはそもそも間違いなんじゃない?」

彼の言うことはもっともだった。私は今の人間関係に悩み、立ち振る舞いに迷いを感じ、このコミュニティでどう生きていけばいいかわからなくなっているのだから。

「そうだけど、じゃあ私はどうすればいいの?今すぐここから逃げ出して、どこか遠くに行くわけにもいかないし、何より、行く当てなんて私には無いもの。何の計画も無しにどうこうできないよ」

相談したのは私からだったが、こみ上げてきた怒りを思わず彼にぶつけてしまった。言った後で少し罪悪感を感じ、怒りをおさめるようにして「ごめん」と小さく呟いた。

「だから、これから計画を練って、少しずつ変えていこうって話だよ。誰も無計画の中飛び出せなんて言ってないじゃないか。そういう『先を予想する力』が乏しいから、今回みたいな件で悩むんじゃないの?」

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彼の意見は悔しいほどに全て的を射ていた。安易な気持ちでコミュニティに入ってしまい、その人たちがどういう性格なのか後々に知り、簡単に抜け出せずに苦しむ私。だからこうやって、的確な意見をくれる彼に相談をしたというわけだ。良くも悪くも裏表が無い彼。思ったことをズバズバと言ってくれるその性格に、私は今まで何度も助けられてきた。

「いい?そういう奴らは周りを囲っておきたいんだよ。自分が管理できる範囲で監視しておきたいの。だから、自分の手に負えないような奴はいらないんだよ。まぁ、そこでムキになって無理矢理にでも囲おうとするような奴もいるかもしれないけど。でもそこで屈しちゃだめだ。自分はこのスタイルで生きてるんだってことを貫いて訴えかけるんだ。そうすれば、徐々にそいつらの興味はお前から離れていく。そうやって少しずつ『小さな村』から脱出できるってわけだ。いいか?どんなに強く言われたとしても負けちゃダメだぞ」

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彼のその言葉には、正直私に対する呆れも見え隠れしていたが、私の背中を押す強さも含んでいた。私1人では解決できない問題も、彼がいれば心強かった。

私1人では見えない部分も、彼が別の方向から道を示してくれる。そんな大切な存在である彼に敬意を改めて感じ、「ありがとう」と伝えて静かに電話を切った。

これはだいぶ前のお話。今でも彼は変わらず、容赦ない正論で私の世界を広げてくれている。