我が家のお風呂には追い炊き機能がない。おかげで立地の割にお財布にやさしい家賃になっている。だが、極寒の冬に、お湯をためようものなら、24分ほどで温水プールくらいの温度になってしまう。

私はパートナーと二人暮らしをしており、順番でお風呂に行くと、温度で不平不満がでる……かもしれない。別れる理由が、「お風呂の温度で喧嘩した」というのは、さすがにちょっと恥ずかしい。だから私たちは、湯船にお湯をためる時は、二人同時にお風呂に入ることにした。

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一緒にお風呂に入るときのルールは3つ。1つ目は、冷めちゃうことを見越して熱めの温度で湯をためるということ。2つ目は、体臭が恥ずかしいから入浴剤を入れるということ。そして3つ目が、スマホを持ち込まないということだ。カメラ機能の悪用によるトラブル防止の意味もあるが、1番は会話する時間を作りたいという狙いがある。

会話をする時間という理由を挙げていることから、会話量の少ない二人を想像した人もいるだろう。だが、私たちは普段の会話は多いほうだと思う。よくしゃべるし、よくボケもツッコミもするし、よく笑う。そんな二人だが、付き合いが長くなると、ついついながら聞きになってしまうこともある。

テレビを見ながら話す、スマホを見ながら聞く、なんてことも少なくない。だから、テレビもなく、スマホを手放して、ただ湯船であったまるだけの時間を会話の時間にしたいと思ったのだ。

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そして、他人と比べられない時間を作りたかった。スマホを片手に会話をしていると、つい地元の友達のSNSを見て比較したり、大手調査会社が発表した同年代の平均値などを見てしまう。「地元の同級生が結婚するから仕事辞めるんだって……私たちは……」、「20代の平均貯金額ってこれくらいなんだって……私たちは……」、そんな会話は、なんとなくしんどく感じる時がある。

気にしなければいいのだろうが、情報が目に入ってきたらつい気にしてしまう……。だから、スマホを手放して誰とも比較しない、二人の価値観だけで話せる時間が欲しかった。

だから、私たちはスマホを手放し、湯船に浸る。そして、ただただ1日の出来事を共有したり、たまにアカペライントロドンごっこをして遊んだりしている。だが、この時間がたまらなく愛おしい。同じタイミングでまったく同じツッコミをハモったり、数ある言葉の中から選ばれた言葉が全く同じだったり、自分たちが人生を共に歩んできた時間を実感する。

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もし二人の将来の話をするなら、私は湯船の中で話したいと思う。誰にどう思われるかなんて考えずに、二人の率直な意見を出せる場所がお風呂場だと私は思っている。まずは、お風呂場で二人の意見を出して、二人の理想をすり合わせたい。最初から同年代のデータや近況報告をみて、「あぁ、本当はこうしたいけど、この辺で妥協するものなのかな~」なんて思いながら、お互い空気を読んで本音が言えない……なんてことにはなりたくない。だから、きっと私たちの大事なことは、これからお風呂場で決まっていくのだと思う。

こんな素敵な時間を過ごせるのならば、追い炊き機能のついてない物件を選んだのも悪くなかったなと感じている。追い炊きのできないお風呂場で、私たちは愛おしいと思える時間を過ごしていこうと思う。