部活を引退した時にもらった後輩がくれたLINE、体調を崩した時に友人がくれたビデオメッセージ、受験前に友人が書いてくれた絵馬、亡き祖母との何てことないメール、私はこれらをiPhoneのスクリーンショット機能を使って保存する。

保存先はiPhoneの中に作った『元気が出る!』フォルダーだ。私は仕事で嫌なこと、辛いことがあるたびにここに保存されている写真、動画を眺めることに決めている。

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学生時代は周囲の人と良好な関係を築いていた。人間関係で困ったことはほとんど記憶にない。仕事を始めてからも概ね人間関係は良好だと思う。それでも時々人との関係性で悩むことがある。

電話対応で名前も顔も知らないおじいさんに理不尽な罵倒を浴びせられた日、ミスをしてしまい、周りの人に迷惑をかけてしまった日。同期と自分の能力の差を感じて泣きたくなった日。

優しい言葉も心を突き刺す言葉も私にかけて欲しくない、人との付き合いは面倒臭い、1人でいたい。人生で初めてそう思った。人が大好きだから、人との関わりが欠かせない仕事についたのに、人と関わりたくない。

そんな気持ちになった時に役に立つのは『元気が出る!』フォルダー。

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これは私が今までの23年間の人間関係で培ってきた何にも変え難い宝物だ。誰かが私のためにくれた言葉の数々。優しさを感じたり、懐かしい言葉で溢れる。計22枚の写真と8本のビデオ。高校3年生の時から着々と溜め込んできた。職場のトイレで、昼休憩の自分の机で、家でビールを飲みながら、こっそりと見る。嬉しい言葉、大好きな人の言葉、どれも私の23年間の人生で紡がれた言葉。

周囲の人にこんなにたくさん思われて生きてきたんだな、と少しだけ元気が出る。その名の通りの『元気が出る!』フォルダーである。

言葉というのは不思議。好きとか嫌いとか、他者に感じた感情は、時間が経てば記憶が薄れるけれど、もらった言葉は良くも悪くも時が経っても色褪せない。

今は疎遠となったあの人、別れてしまった恋人、亡くなってしまった祖母。言葉をもらった時の感情も、言葉をくれた人がどのような人だったかも時間が経てば鮮明には思い出せなくなってくるけれど、その言葉は私の心に色濃く残っている。だからこそ優しい綺麗な言葉を保存して、いつでも心に取り出せるようにしておきたいのだ。

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経済的には自立してきたここ数年。他者に依存せずとも生きていきたいし、自分1人で持っておけるお守りが欲しいけれど、私は周りの人がくれた言葉たちで成り立っているし、これからもそうなのだろう。これから私の周囲の人は入れ替わっていくのかもしれない。入れ替わっても大事なあなたがくれた言葉たち。これからも言葉を更新していきたいとぼんやりと思う。

この言葉たちが生きづらい世の中から心の外壁となって私のことを守ってくれますように。言葉が消えてしまうことなく、ずっと私のお守りになってくれますように。