クリスマス当日、私は初めて人を好きになった。

これだけ聞くと誰もが「ロマンチック！」と叫ぶだろう。だが違う。

好きになった場所はアルバイト先の洗い場。きっかけは社員の「クリスマスだけどふたりは恋人いないの？」の一言。全くロマンチックのかけらもないでしょ？けど私には銀色の洗い場が金色に輝きシャンデリアも見え始めるほどの出来事だった。そう、初恋の彼に彼女がいないことが証明されたのだ。

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大学2年生の秋、いつものように淡々と仕事をしていた。働き始めて２年、アルバイトの中でも中核の存在であった。私は人に頼るのが苦手だ。自分でできることは頼らず１人でこなす、母の教えがあったからだ。しかし初めて、次にすべき仕事を先読みされてしまい手助けをしてもらった。犯人は働き始めて2ヶ月目の彼だった。私は「めちゃくちゃ助かった、ありがとう」と少しぶっきらぼうに言ってしまった。

すると彼は「俺がやったんすよ」なんて主張も表情もせず、「仕事だから。当たり前なので。」みたいな顔をしてお辞儀だけして仕事に戻った。その後ろ姿に胸が熱くなった。この出来事をきっかけにシフト表が出るたびにまず彼がいるかを確認するようになった。そしてシフトで被ると何故か視線の先にずっと彼がいた。

あぁ、私は本気で恋をしてしまったんだ。

それから先の展開はとても早い。私は勢いで彼のLINEを追加し、業務連絡並みの長文を毎日送り合った。彼の優しさとぐしゃぐしゃの笑顔に好きが溢れ出た。こんな幸せな時間がずっと続くのだと、そう思っていた。

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彼と３回目のお出かけ、彼が涙である告白をした。「解離性同一性障害」「パニック障害」「不眠症」。聞き慣れないワードが飛び交った。誰もが一度疑い悩むだろうけど、その時の私には悩む余裕なんてなかった。

泣いている彼をどう励ますかをひたすら考えていた。ここまで素敵な人がなぜ苦しまなければいけないのかわからなかったからだ。告白から1ヶ月後、私は彼に好きだという気持ちを伝えた。

私は人前で泣くのが苦手だ。弱そうに見える気がしたからだ。しかし彼と付き合って、私は友人の前でたくさん泣いた。「こんな人間でごめんなさい」「自分には価値がない」、彼の口癖だ。私はこの言葉に「そんなことない」「大丈夫？」ってしょうもない回答しかできなかった。そして彼と同じ姿をしたもう一人の彼。口調も名前も表情も異なる彼は私を嫌った。

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「今は大好きな彼か、私のことを嫌う彼か」連絡をすることが徐々に怖くなった。恋愛がこんなにも大変なものだと考えていなかった。21年間生きてきて、こんなにたくさん泣いてたくさん悩んだのは初めてだ。友人からは何度も「辛いなら別れてもいいじゃないか」と助言をくれた。しかし私には「別れる」という選択肢が見つからなかった。

何故ならこれらは全て、彼の魅力であって個性だからだ。人は一人では生きていけない。辛いこと苦しいことは分け合って、喜びは何倍にも増やしたい。彼がくれた沢山の愛と優しさを無駄にしたくなかった。

多くの人が口を揃えて言った。「ドラマみたいだね」「映画にできるよ」って。私もそう思う。「このドラマはフィクションです」って、書き足したいと思ったことが何度もある。けど彼と出会って、私を見つけてたくさんの愛をくれる『人』がいること、泣いて悩んでいる私に手を差し伸べてくれる『人』がいること、私はたくさんの素敵な『人』達に囲まれているんだって。私は幸せ者だって。心から本気で思えたのは彼のおかげだ。

もうすぐ付き合って1年、そして立ちはだかる就職活動と卒業論文の執筆。この時期は恋人達にとって難所だろうが、無縁な話だろう。だってこれまでドラマのような出来事を山ほど経験して乗り越えてきたんだから。大切な『人』がいるだけで、『人』は強くなるのだから。