いつからか、私は睡眠が苦手だということに気付いた。

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思い返せば高校生くらいから、一晩中パソコンに向かって調べ物をしたり、SNSで出会った友人たちと話したりしていた。朝方になってからやっと1、2時間くらい寝たら、学校にいく。これがルーティンとなっていた。一般的に、これだけ睡眠時間が少ないと、日中眠くなるものだと思うが、それもなく元気に授業を受け友人とふざけて、青春とやらを満喫していた。

しかし、人間の体は次第にガタがくるものだ。このような生活をしていると、あっという間に体力は落ち、集中力もなくなり、おかしいなと思ったときにはもう遅かった。どうにもおかしいものだから病院へ受診した私は『双極性障害』だと診断された。それから幾年か通院を繰り返し、加えて『睡眠障害』とも診断された。私は、睡眠が苦手だと意識せざるを得なくなった。

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双極性障害の治療のひとつとして、生活リズムを整えることが挙げられる。私も意識していることだ。しかし、睡眠障害でもある私は、なかなか夜眠ることができずにリズムを整えることができずにいた。そうすると具合が悪くなる。とってもわかりやすいけれど、扱いづらい体だなと思っていた。だから、私は眠る前の時間を一等大切にしている。

さて、ようやっと「スマホを手放す時間」になるのだが、

お察しの通り私がスマホを手放す時間は就寝前だ。ベッドに入る30分前からそれは始まる。パソコンもスマホも手放して、明かりを間接照明に変える。家庭用のプラネタリウム投影機に内蔵されている環境音を流しながら、ぼーっと過ごす。気まぐれにストレッチなんかをして、体を伸ばして明日の自分が頑張れるようにちょっとした期待をかける。だいたいこの期待は眠っている間に忘れてしまうのだけれど。

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それから私は、本型のボックスから手紙を一枚選び出す。

顔も知らない誰かから私宛に届いた手紙と、届かぬ返信を書いた夜」でも紹介した、手紙小説だ。今日はどんな気分だろうかなんて考えながら沢山の手紙の中から一通それを引っ張り出す。ああ、今日は「ロボット」からの手紙のようだった。

そうやって私はB5サイズの手紙4通を読んで、それから間接照明を消す。

(このとき、勢いで夜更かしを決め込み、手紙の返信を書く時もあるが今回は眠れたときの話を記すことにする)

暗くなった部屋には、家庭用プラネタリウムの光が輝く。手を伸ばせばつかめてしまいそうなその輝きは、私をまるで宇宙旅行へと連れていってくれるみたいだ。

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スマホの中には、たくさんの人と情報が溢れている。それは満員電車の人間のようだし、10社以上の新聞のようでもある。もちろん宇宙の情報もあるし、美しい星の動画や写真なんかもある。でもそれは、私を宇宙旅行へと連れていってはくれない。必要な情報を集めるにはいいかもしれないが、ただ茫然とみるだけでは、なんとなく疲れてしまう。そのくせ時間だけはしっかり経っているからたちが悪い。

憎いけれど愛らしいこの小さな機械は、とても大切なものだが私の睡眠リズムを整えるのには必要がなかった。だから私は、ベッドに入る30分前、就寝する1時間前には、そっとそれらを手放すことにしている。

液晶からダイレクトに入る電気から、オレンジの明かりに変わり、そして天井に宇宙が広がる。スマホを手放す時間は、私が眠りに入る準備を始める合図だ。そうやって人や情報、そして光から離れる時間は悪くない。