わたしには昔、同期の彼氏がいた。
田舎の会社に就職したわたしたちは最初の配属先が同じで、毎日一緒にいるから勝手に家族なのかと錯覚していた。向こうもまた同じだったと思う。

だから、出会ったらそのまま自然に付き合って本物の家族になるもんだと思ってた。今の人生、思ってたのと全然違う。

わたしの会社は2年経ったら近場での部署異動の約束があった。なのでおとなしく、疑問も持たず、そうなんだ、と思って2年過ごした。

そしたら2年後、まず先に彼氏が異動を言い渡されて、なら近々わたしも…!と思っていたら、上司に呼ばれたかと思ったら、「あなたの異動はありません」。なんだそりゃ。

泣きながら彼氏に報告した。「とは言え、俺らは変わらないよ」と言ってくれた。嬉しかったけど、話を聞けば同期みんなで仲が良かったのに異動がなかったのはわたしだけだった。そっか、わたしだけ、話が合わなくなっちゃうんだ。でも、彼氏がいるから大丈夫。そう思っていた。

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その後、彼氏は楽しそうに、わたしは恨めしそうに、それぞれの職場で働いていた。彼氏は明るい性格なのでどんどん知り合いができたし、わたしは元々知っている人と仲良くしていた。

彼氏に広がる世界はとても羨ましく見えて、わたしのことはもう忘れているようだった。わたしはそれが悲しくて、でも自分の力ではどうしようなくて、彼氏が職場の人と飲み会に行く時は泣いて騒いだり、SNSでひっきりなしに連絡して困らせたりしていた。自分でも他人事のように、自分もこんな少女漫画のヒロインの恋敵みたいなことするんだなあって、思っていた。

でも彼氏は、仕方ないよ会社の付き合いだから、環境が変われば人も変わるんだし、と言って毎日出かけて行った。確かに遊んでる人たちはわたしの知り合いの知り合いではあったし、彼女がいることも公表してくれていた。

まあそうか。仕事と言われればしょうがないか。と真面目に思っていた。彼氏は出かけていく以外は何も変わらなかった。それならば、今はわたしが我慢する時。結婚するんだからしょうがない。

そのまた数年後、変わらずうだうだしていたわたしのところに異動の通知が来た。その部署は、手当てが高くて自分が会社人生行くことができないと思っていた部署だった。勤務地は行くはずのなかった大都会。給料も彼氏より明らかに多かった。

自分もびっくりしたが、周りの方がびっくりしていた。昔の上司も、数年つらい思いさせてごめんね、と送り出してくれた。わたしはちゃんと勤め上げられるのかどうかの方が不安で、訳もわからないまま異動したが、結果新しい職場の人は温かく迎えてくれて、どうにかこうにか1人で働けるようになった。

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そのうち少し落ち着くと、いろんな世界が広がっていることに気付いてしまった。

まず勤務地には今までの地方にはないものばかり、なんでもあった。逆に、向上心のない同僚も、結婚を急かす人も、1人で飲みに行くことを揶揄する人もいなかった。まずこういう人がいるのが当たり前だったので違和感を感じていなかったが、逆に帰省した時にストレスを感じるようになった。

休みの日には今までSNSで見て憧れていたイベントの当事者になれる。好きな服屋さんにも思い立ったら行ける。信じられなかった。勉強したいものもすぐそこにあった。ああ。都会って、何でもあるんだ。だから栄えているんだ。なんだか、説明できないけどこの気きはショックだった。

わたしは何も知らないでのんびり約20年育ってきたけど、都会の人は何もかも持っていたんだ。みんなが上京したがったのって、こういうことだったんだ、とただの田舎者の癖に思った。それと同時に、未だに地元で友達や同期と馬鹿騒ぎして酒を飲み、よくわからないギャグをかます先輩おもしろくもないのに持ち上げている彼氏に、何かがスーッと冷めていくのを感じた。

そういや、思い出した。あの人、わたしのこと選んでくれなかった。今は仕事の人との付き合いを大事にしたいから。そういって何にもしてくれなかった。最後にお出かけしたのいつだっけ。こっちに会いに来てくれたら、いろんなところを紹介できたのにな。

そうだ、全然遊んでくれなかった。わたしの存在意義とは?この彼氏はわたしに何をくれるのだろう?いや、でも。そんなこと考えちゃダメだ。ちょっと疲れているだけ。わたしの気持ちは変わらないもんだと思っていた。

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 けど、このなんでもある大都会で、自己実現を諦めたくない気持ちが強くなってしまった。

思い返せば始めたい趣味もいっぱいあったし、旅行も都会の方がアクセスが明らかに良かった。取りたい資格の試験もこの街でしかやっていなかったし、素敵な人間がたくさん生きていた。地元に帰って、毎日近所の人にわたしの生活習慣を監視される必要があるのだろうか。そう考えてしまった。

しばらくして、悩んで悩んで、わたしは彼氏に別れを告げた。自分で自分にショックだった、わたしって簡単に気持ちが変わるんだ。でもふとそういえば思い出した。環境が変われば気持ちも変わる、とか言ってたのは向こうだった。

じゃあ、しょうがないね。自分が言ったんだもんね。思い出した時からわたしの罪悪感は突然なくなった。文句を言われる筋合いがない。そっちが言い出したんだもんね。

わたし、悲しかったよ、ずっと一緒にいられると思っていたけど、勘違いだった。地元で楽しく変わらない生活を送っているあなたと、よくわからない都会にかぶれていろんなことに挑戦しているわたし。なんでこうなっちゃったのかな。

わからないけど、一緒に過ごした数年間、とっても幸せだったよ。次の地元の女の子と付き合う時は、外見をいじらない方がいいと思うよ。あと、作ってくれた料理はちゃんと褒めるんだよ。夜もちゃんと愛してあげてね、不安になるから。10キロ痩せたら結婚するって言ってくれたのに痩せなくてごめんね。幸せになってね。報告はいらないから。