昔から、「仲良くなりたい」と言ってくる人が苦手だ。
はっきり面と向かって宣言してくる人は大抵厄介だ。人間同士なりたいと思ってなれるものではない、そんな宣言してきて後からやっぱ合わないなって思ったらどうすんだ、話してみてなんとなく気が合うから一緒にいるようになることを仲良くなったと表現するんじゃないのか、とわたしは思っている。ちなみに今の言葉3つ、一応句点は打ったが息継ぎはなし。もっと言えばデカめの声で脳内再生して欲しい。声の主は各自にお任せするので。
「仲良くなりたい」と言ってきた奴(敬称略)に悩まされたことが何度もある。あくまで約30年の経験上の統計だが、人に面と向かって「仲良くなりたい」と発することができるタイプは「仲良くなる」ことと「支配下に置く」ことをごっちゃにしている場合がある。もちろん全員がそうだとは思っていないことは先に言っておく。
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基本的にわたしはぼーっとして見えるので、まあ実際そうなのだが、よく厄介ごとに巻き込まれる。わたしはおそらく友達が多いタイプだ。でも、自分自身としては自分からは怖くて人に話しかけられないので、話しかけてくれる人と仲良くしていったのと、特に女性とは絶対仲良くしたいので全力で気を遣いその結果人材は少数精鋭になっていき、男性はとりあえず話しかけてみるスタイルの人が多いので話しかけられるがまま話せるようになった人は多い、という状況になってしまった。
学生の時はわたしと仲良くなれると思ったら意見が合わないことが気に食わず仲間外れにしてくる奴もいたし、異性の同期の彼女が仲良くなりたいと言ってきてSNSで繋がったはいいが同期で飲むたびにストーリーに一面漆黒ブラックホールかつ虫眼鏡でしか判読できない小さな文字の悪口を書かれたりもした。
一番傷ついたのは「思ってた人と違った」と言われたこと。なんなんだ!わたしにどんなイメージを持って近づいてきたんだ。そこだけ教えて欲しかったけど、あまりの衝撃で黙ってしまい、そのままフェードアウトしてしまったので知る術はない。けどそこでわたしはやっと悟った。わたしが気を遣っている結果なんかおかしいことになっている。内心仲良くなりたい女の子ほど仲良くなれていない。思っているイメージと思われてるイメージが違いすぎる。ああ、もう覆すことって出来ないかもな。って。
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最近ある人と出会った。同じ職場だけど、ちょっと遠いところにいるちょっと歳下の女性。そんなに毎日言葉を交わすわけではない。正直口調がちょっと乱暴で愛想の良いタイプではない。上司先輩後輩誰でも関係なく「そんなわけねえだろ!」とか突っ込める人だった。
そんな強そうなのに、時々ふと彼女から出てくる気遣いが本当に優しくわたしに響くので、なんだか向こうの方が姉御だったけど、やっぱりちょっと怖かったので、ひっそり遠くから憧れの気持ちで眺めていた。きっとあんな強い子は、わたしとは別世界の女の子なんだろうなあと思いながら。あんなに自分の意見をハッキリ言えるのに、上司にとんでもない口がきけるのに彼女はみんなに好かれていた。口調は怖いのに、特に男性にはハッキリとしているからか好かれていた。それでいて、ミステリアスな雰囲気というか本心を語っていなさそうな雰囲気も出ていた。その感じに影響をうけて、例に漏れずわたしも好きになっていた。わたしと何が違うんだろう。
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そんな時に共通の職場の同僚に、いつものように激安居酒屋で呑んだくれながら自分がいろんなことが気になりすぎて、気を遣いすぎて、疲れていることを白鳥みたいなとんでもない声量で愚痴ったときがあった。するとその人はわたしのことを例の彼女みたいだ、と言った。彼女はわたしの性格をその職場の人から聞いて、「仲良くなれそう。感覚が合うと思うけど、あえて近づかない」と言っていたらしい。鳴くのをやめて、その彼女が考えていることの詳細を聞いた。彼女の後に同僚として職場に登場したわたしの様子を観察した結果、仲間と判断されていて、さほど話してないのに勝手に信用を勝ち取っていたのだ。
本能で彼女に共感した感覚があった。人付き合いについて、わたしと感覚がほとんど一緒なのだと思う。話したら絶対に仲良くなれることはわかっている。けど、絶対に女性とは仲良くしたいので死ぬほど気を遣うしそれは彼女も同じだった。わたしは何万周も回って、話しかけないという選択をした。同僚は、全く理解ができない顔をしていた。なんで仲良くなれそうなのに話しかけて自ら仲良くならないのか。
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わたしは思った。わたしからしたら、我々の感覚からしたら「話しかけない」ことが趣きなのだ。たぶん我々みたいなタイプは、人が誰彼に話しかけている瞬間を見てしまったら、一瞬で興醒めなのだ。だから、お互い、同じタイプであり、それをこっそり示すために、自分のまだ見ぬ相手には、自分から話しかけない。無理はしない。それが私たちのタイプの趣きだからだ。この話は誰にしても理解してもらえないし、その後もその彼女とは挨拶程度の会話しか交わしていない。でも、なんとなくわかるのだ。挨拶する時の目の奥に「わかってますよ」とにやつく彼女がいることを。彼女もわたしからの目ッセージを受け取っていると思う。「いつか、本音で話そうな」と発信していること。
いつか彼女とは、話さなくても大親友になっていることだろう。