20歳の冬、私は大好きだった先輩に振られた。その先輩のことは高校の頃から気になっていて、私が高校卒業後に上京してきたのをきっかけに先輩とは月に1度遊びに行く関係になっていた。高校時代から気になってはいたものの特別仲が良かったわけではなかったが、お互い映画好きで映画の趣味もとても合ったので、気づけば頻繁に遊ぶようになり新作が公開されるたびに2人で見に行っていた。そして次第に私は先輩に惹かれていったのだ。

◎          ◎

年末にイルミネーションを見に出かけた際、私は意を決して告白しようと思っていた矢先、先輩に「君のことは本当に妹みたいに大切に思っているよ」といわれてしまった。あまりにも突然すぎてびっくりしたのだが、おそらく先輩は私の気持ちに初めから気づいていて、私に告白される前に牽制されてしまったのだと思った。告白すらさせてもらえなかった私のこの気持ちはどこへ向かえばいいのだろう、そんな時インスタで偶然見つけた猿島へ行くことにした。

我ながら本当に突然だった。今まで一人で離島に行った経験はなく、1人で出かけるとしても都内での買い物くらいだったので、1年が終わる前にどこか自然がたくさんのところにいきたいと思った。猿島は横須賀の港からフェリーで15分程度で着く近場の離島だった。インスタで見た猿島は海が透き通っていて、ジブリのような世界観でとても関東とは思えないところだった。

◎          ◎

いざ向かうと乗り慣れた電車ですらドキドキして、胸が弾むとはこういうことかと実感した。いつもであればイヤホンをして電車に乗るのだが、せっかくの一人旅なのに、イヤホンの音楽で聴覚をシャットダウンしてしまうのなんてもったいないと思い、その日1日はイヤホンを禁止、スマホも極力触れないようにした。最寄り駅についてからもできるだけマップを見ずに歩きたい方向に向かって歩き、偶然入った和食屋さんでカツ丼を食べた。外が寒かったので、カツ丼と味噌汁の温かさが身に沁みた。

その足でフェリーに乗り念願の猿島へ降り立った。インスタで見た写真よりも青々とした空、底まで見えるほどの透き通った海。空気も心なしか美味しく感じられた。そのまま1人で島中を散策し、帰りのフェリーの時間まで約4時間猿島から見える横須賀の街を眺めて過ごした。夏はビーチでバーベキューをすることもできるらしい。こんなところ知らなかった、先輩に振られた反動で突然向かった先で都会のオアシスに出会えた。その時私は嫌なことの後には必ずいいことが返ってくるんだなあ、捨てたもんじゃないなと思った。

◎          ◎

それからというもの、私は一人旅が趣味になり、フィルムカメラを持って、時間があれば日帰りでもいろんなところへ出かけ、自転車をレンタルし、その街や島中を駆け抜けることが好きになった。友達と行く旅行とは違った楽しさが一人旅にはある。一人旅が好きになってから格段に視界が広がった気がする。以前より物事に関しておおらかに考えられるようになったし、自分のストレスの発散にも繋がった。あの時の失恋があったからこそ、今の私がいるし、あれからも先輩とはいい関係が続いていて、今ではなんでも話せる本物のお兄さんのような存在になった。あの時くすぶって引きこもらず思い切って外に飛び出して良かったなと、過去の自分に感謝したい。