イベントには関心の無いタイプの人間だった。いつもと違う、特別感のある空気が苦手で、浮き足立つ世間の様子も、どこか冷めたような気持ちで見ていた。ハロウィン、クリスマス、そしてもちろんバレンタインも、私にとっては同様に心躍らないイベントだ。

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だが、高校2年生の冬はそうも言っていられない状況になってしまった。その当時、私にはお付き合いをしている人がいた。彼は私とは真逆のタイプで、イベントに心燃えるタイプだった。10月に突然お菓子をプレゼントされて、「え、なんで?」とうろたえる私に、「だってハロウィンだから」と当たり前のように言われて、かなり驚いたことを今でも覚えている。いや、私がイベント事に興味がなさすぎるだけなのだろうか。

付き合って初めてのバレンタイン。彼は期待しているのだろうか。しているだろうな。少し憂鬱だった。私の通っていた高校は、冬の定期テストが2月にある。私はイベントよりもテストに燃える人種なのだ。テストのある月は、どれだけ点数を取れるかに燃える時期だ。イベントに思考を割くことに煩わしさを感じた。

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とは言っても彼のことは大好きで、期待されているなら応えてやろうじゃない!と思う自分もいた。テストのことが頭から離れないながらも、バレンタイン前日には手作りのクッキーを焼いた。今までこの時期に恋人がいたことはなかったし、友チョコ交換も市販のものに頼っていたから、なんとも慣れない作業である。テスト期間になんでこんなことしているんだろうという気持ちを振り払いながら、なんとか完成。翌日、彼のロッカーに入れておいた。直接本人に渡せないあたり、私にもかわいい照れ心があったのだ。繰り返しになるが、イベントが苦手なだけで、彼のことは大切に思っていた。

イベントは無事に遂行したぞと達成感に包まれ、テストの手応えも上々とるんるん帰宅。彼にあげたクッキーが余っていたので、勉強のお供に食べようと自分の口にポイ。ゴリッ。え?想像していた食感とはかけ離れた固さに私も硬直。焼きすぎた?バターが足りなかったのだろうか。ショックと恥ずかしさで思考が停止する。あーあ、慣れないことするから。後日届いた彼からの「おいしかったよ」のLINE。「本当に?」とは怖くて聞けず、「よかった!」とだけ返信。

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一ヶ月後のホワイトデーには、お返しとして彼から手作りクッキーをもらった。「手作りのもらったから、俺も手作りにした」とのこと。さすがイベントに燃える男である。淡いクリーム色のクッキー。私が作った物よりもおいしそうである。自分のお菓子作りの才能よと思いながら彼のクッキーを一口。う、しょっぱい。それは最近よく見る塩レモンとか塩キャラメルとか、そういうオシャレな塩の使い方じゃなくて、純粋に塩と砂糖を間違えたか?というしょっぱさ。もしくは有塩バターを使ったのか。彼の手作りクッキーを食べることができて嬉しい。でも、しょっぱい。そんな気持ちがグルグルになりながら彼にLINE。「おいしかったよ!」

ゴリゴリクッキーにしょっぱすぎるクッキー。今でも残る二人の「おいしかったよ!」のLINE。私たちはもしかして、かなりお似合いのカップルだったのではないだろうか。固くてしょっぱい、バレンタインの思い出だ。