私の視野を広げたもの。それは、おじいちゃんが作ってくれた「きゅうりのお味噌汁」である。今となっては、黒豆の煮物からローストビーフまでバラエティーあふれるご飯を作ってくれるおじいちゃんであるが、昔は料理なんて全くできなかった。

その料理が全くできなかった頃に作ってくれたのが、「きゅうりのお味噌汁」である。

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当時私はまだ小学生であった。その日は終業式の日であったため、お昼前に帰宅した。

両親が共働きであり、学校が終わったらいつも祖父母の家に帰宅していたのだ。

いつもお昼ご飯を作ってくれるおばあちゃんが、その日は留守にしていたので、代わりにおじいちゃんがご飯を作ってくれたのである。

その時のお昼ご飯に出てきたのが、この「きゅうりのお味噌汁」である。

薄くスライスしてあるならまだしも、かなり太めにカットされていた。それを見た時、私は心の中で、

「え、えーー!絶対美味しくないよ、これ」

と思っていた。ごめんなさいおじいちゃん。

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だってね実際、きゅうりとお味噌汁の組み合わせなど、今までのご飯にでてきたことはなかったし、外食先でも見たことはなかった。

だから、まったく味が想像できなかったのである。

やばそうオーラーがぷんぷん出ているそのお味噌汁を恐る恐る飲んでみると、なんとまあびっくり。程よいきゅうりの歯ごたえとスーと鼻に入ってくるお味噌汁の香りが絶妙にマッチしていた。予想と反してとても美味しくて、めっちゃ感動してしまった。

この感動した本当の理由が何かは正直分からない。シンプルに、そのお味噌汁が美味しかったからかもしれない。おじいちゃんが作ってくれた初めてのご飯だったからかもしれない。食べる前に抱いていた予想をはるかに超えてきたからかもしれない。

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いやきっと、この全部が重なり合ったから感動したのだろう。私は後で、その時の感動を家族みんなに伝え回ったことを思い出した。

その時は、「美味しかったな」「こんな組み合わせもアリなんだ」くらいの気持ちで終わった「きゅうりのお味噌汁」であるが、今そのことを考えると、それは私の視野を広げてくれたものだったのかもしれない。

正直、「今日のおみそ汁の具材は何にしようかな」って考えた時、「きゅうり」を選ぶ人は少ないと思う。私もお味噌汁なら具材は、豆腐とかわかめとか油揚げでしょ、って思っていた。

でも、よく考えたら、もろきゅうっていうのがあるくらいなんだからおしいでしょって。

お味噌汁の具材のようにいろんな冒険をすれば新しい発見があるってことを身にもって実感できたのだ。

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私は冒険をせず安定を選ぶ性格だ。だから、帰り道はいつも決まって同じだし、服の系統もほとんど同じで白か黒。

でも、おじいちゃんのその斬新なアイディアのおかげで私の視野が広がって、新しい発見を求めるようになった。いつもと違う道で帰ったら、ジブリにでてくるような喫茶店を見つけることができた。こんな風に、自分が予想していないところで驚きの出会いをするかもしれない。人生を変える出来事がおこるかもしれない。

だから、いろんな人と出会って、いろんなことに挑戦して、どんどん視野を広げていきたい、そんなことをふと思ったのである。