2年半くらい前。大学4年生だった私は、就職活動に励んでいた。
全部で26社受けたと記憶している。一般的には普通なのかもしれないけれど、通っていた専攻の中ではこんなに数を受けている学生はいなかった。
やりたいことがはっきりと決まっていなかった私は、ありとあらゆる業種・職種に挑戦した。
カメラ屋の接客、医療機器の営業、ジュエリーデザイナー、壁紙やカーペットの会社の事務……。月収や年間休日数などの雇用条件が希望と合っている求人を中心に応募していた。

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私は、コミュニケーション能力があまり無い。初対面の人話すのは苦手だ。
しかし、大学時代は接客のアルバイトを長く続けていたため、一次まではそこそこ通過できた。一次面接は、短い時間で簡単な質問だけで終わる場合が多い。聞かれるのは大抵「志望理由」とか「学生時代に頑張ったこと」とか、事前に想定できる内容。偽りの自分でやり過ごせた。
しかし、選考が進むとそうはいかない。思いがけない質問を投げかけられたり、面接官と話す時間が長くなると、ボロが出る。本来のコミュニケーション能力が露呈してしまい、2、3次の面接で落とされることが続いた。
大学3年の2月くらいから就活を始めていたのだが、気づけば夏が訪れようとしていた。
ネット掲示板やSNSで、「新卒」「NNTNAI NAITEI=無い内定)」などのワードで検索をかけまくる日々。そんなことをしても有益な情報は得られないのだが、延々と続けてしまっていた。

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しかし、そんななかでもようやく、嬉しいメールが届いた。志望度が高かった企業からの、最終面接への案内だ。
時期的にも、もうこの企業に決めてしまいたい、という気持ちが強かった。しっかり対策しておこうと、大学のキャリアセンターで面接練習をしてもらった。ハローワークの新卒窓口にも足を運んだ。面接官からの質問をいくつか予想し、それに対する返答をルーズリーフに綴って頭に叩き込んだ。その企業が発行している商品にも目を通し、関連した話が出来るようにした。
しっかりしている就活生なら当たり前にやっていることかもしれないけど、私がこれら全ての準備をしたのは、この面接前が初めてだった。それくらい内定を得たい気持ちが強かったのだ。

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そして迎えた最終面接当日。
集合時間の2時間前、私が向かったのは、カラオケボックスだった。
もちろん、単に楽しみたかったわけではない。
面接前に、喉を開いておきたかったのだ。
私は緊張すると、いつも以上に声がうまく出せなくなる。そうなったら、これまでやってきた対策も意味がない。
多少喉を開いたところで、合否は変わらないかもしれない。だとしても、やれることは全てやっておきたい。そんな思いで、午前中の空いているカラオケ店の扉を開いた。

結果として、この面接を通過し、私は今もその企業で働いている。
あのカラオケにどれほどの効果があったのかは、正直分からない。でも、「私はここまでやったんだ」という気持ちにはなれた気がする。「ここまでしないと面接に臨めない社会不適合者が、何故まともに就活なんぞやらねばならんのだ……」とも思ったけど。
もし就活を控えている読者の方がいたら、面接前カラオケ、おすすめです。ぜひやってみてください。