「久しぶり。元気にしてた?」
別れてから1年と5ヶ月。
噂に聞いたことのある、“元彼からのLINE”が私の元にやってきた。
8時間勤務の1時間休憩中、バイト先の休憩室でただ一人、「本当にこの文面で来るのか〜」なんて、通知画面に残るメッセージをどこか他人事に感じてしまう自分がいて、「あ、もう本当にあの頃のときめきは、もうあの頃の私はいなくなったんだ」と気づかされた。

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そういえば別れた時、最後に来た彼からのメッセージは未読のままトークを非表示にした。
一生既読にならないメッセージに後悔すればいいと思ったし、きっと私がこのトーク画面に戻ることはない。
大きな喧嘩をして、別れ話が匂わされる度に、「別れたらもう友達には戻らないよ」って何度も釘を刺した私の言葉の意味、本当にわかってたのかな。
でも、そんな強気な心の裏側で、トークを全て消し去ることが出来なかったのは、記憶の一つとして、今日までの私を構成した要素の一つとして、残しておきたい気持ちもあったんだと思う。

別れてから身の回りで、いろいろな変化があった。
半年後には新しい彼氏が出来ていたし(この人もかなりの曲者で、既にお別れ済み)、2年近く働いた、憧れだった緑のエプロンのコーヒー屋さんを辞めたり、意識高い系のゼミに入って地獄を見たり、大好きだったあのバンドのメンバーは、私と同い年のモデルと不倫をしていた。
それがきっかけで熱が冷めちゃって、今は全力でアイドルの応援をしている。
そんな目まぐるしく回る日々の中で、彼と過ごした日々を思い出すことはめっきり減った。
残しておいたトーク履歴も、再び呼び戻されることは一度もなかった。

だからこそ、久しぶりに目に入った名前の表記にほんの少しだけ驚きを覚えた。
けれども、既読を付けずに覗いたトーク画面に、私たちの会話は一つも残っていなかった。

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「あれ?」と思ったのも束の間で、実はこの前、LINEの容量があまりにも重かったから、再インストールをした。
おかげさまで20GBに膨らんでいた容量は、今では400MBほどに収まっているけれど、その代償に、ほとんどのトーク履歴が消えてしまったらしい。

だからといって、寂しいとか残念なんて感情は全く無くて、「そっか」という、冷静な感想しか出てこなかった。
よく耳にする「女は上書き保存」って言葉は、すごく的を得た表現だと思う。

時間は前にしか進んでくれないのだから、過ぎた過去を懐かしく思う時間があれば、目の前の素敵な出会いや、楽しい出来事に時間を割きたいし、自分のために時間は使ってあげたい。
それに、たくさん悩んで、たくさん泣いて、一生懸命恋愛していた過去の私だって、大切な私の一部だから、絶対に否定なんてしないし、この先も私は、このスタンスで一生生きていくつもりだ。

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きっともう、こうやって振り返ることもないんだろうな。
私の記憶は過去に変わったから。

バイトが終わり、再び開いた通知画面には、さっきまでのメッセージと引き換えに、「~がメッセージの送信を取り消しました」の一文だけが残っていた。