「ブーブー」
深夜、暗い部屋でマナーモードの携帯が鳴り響く。
「なんだ……」
もう私は、とっくにベッドの中で眠りについている。でも、どうも気になって仕方がないのも否めない。
連絡は、彼からなのか、家族なのか、友人からなのか。
窓を見つめると、まだ朝の陽の光は入ってきていないどころか、1人暮らしの部屋は真っ暗。時計を見ると、深夜2時前をまわったところだ。
「もうちょっと寝たいな……」
そう呟いて、通知のことは気にせず、またベッドで静かに眠りに戻る。
最近は、彼からの連絡でも、1人の自分時間を選択することが多い。なぜなら、彼も私もその方が交わりやすい性格だからだ。
付き合い始めて、月日が経ち、お互い素の関係で関わり始めると、私たちは2人とも自分の生活を優先する。そんな相性のカップルだ。
◎ ◎
以前も、同じようなことがあった。それは、去年の私の誕生日。
夜眠っていたら、「ブーブー」という通知で目が覚めた。
スマホを開くと、「お誕生日おめでとう!また会えるの楽しみにしてるよ!」とショートメッセージが来ていた。時間は、午前5時前をまわっていた。
その時は心地よい春だったので、それに返信しているうちに、窓の外は朝焼けに包まれていった。
普段、遅めに起きる私は、あまりにその空が綺麗だったので、自室から見える薄い青とピンクの入り混ざった朝焼けの写真を撮り、お礼とともに彼にメッセージで送った。
きっと、彼は今から眠りに着くんだろうなと思って、それ以上はメッセージを送らないことにした。
静けさが広まった自分の部屋で、時折、机の上に飾ってある2人の写真を眺めながら、次、東京で2人で会えるのはいつだろう……と少し温かい気持ちになった。
彼はデートでもそれ以外の日でも、いつも忙しそうな様子だ。でも、誕生日の時、こうして深夜か早朝の合間に必ずメッセージを送り、私が東京に戻った際に、一緒に食事をして誕生日を共に祝ってくれる。
東京で過ごすその1日が、遠距離の私にとって、会えない時間もお互い仕事を頑張ろうと励ましてくれる心強い、温かな時間だ。
◎ ◎
一度、「私たち、付き合っている意味がある?」と彼と喧嘩になったことがある。ほとんど連絡もしなかったし、お互い出張やらなんやらで会えるタイミングが重ならなかった。
でも、遠距離恋愛で会える日のタイミングのずれなんかで関係を終わらせるのは、どこか違うなと自分の中で思った。
それなら、お互い自由に未来に向かって自分の人生を送り、お互い合ったタイミングで励まし合おうじゃないか、という着地点にいきついた。
それから、遠距離でも彼とのメッセージや会う約束は、少なくなった。でも、それは私にとっても彼にとっても、不安から無理のない信頼関係に移行したことを意味している。
だから、真夜中に「ブーブー」と携帯が鳴り響いても、私は携帯をそのままにして、水を飲んだり、ドライヤーで髪を乾かしたり、ベッドで眠りについたりと、自分のルーティンを過ごすことにしている。