どれだけ眠くても毎日服のテーマを決めるようにしたら、それだけでなんだかいい1日になりそうな気がした。
これは、日記も筋トレも2日しか続かなかった私が、1年間続けた「こだわり」の話だ。 

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持っている服は数多いわけではない。時間のない朝もある。
それでも私は、服のテーマを決め、寝癖を直して化粧を施し、家を出る。

  きっかけは「自分に自信が持てないこと」だった。
住む場所があって、悩みを話せる友達もいて、寝て起きたら新しい1日が始まることが当たり前の環境にいるのに、何かが足りないとずっと悩んでいた。

街を歩いていても、何かが足りない。

新しい知識が身についても、何かが足りない。
美味しいご飯を食べていても、何かが足りない。

自分が自分になりきれていない感覚がして、常にどこかを漂っているようで、自分の中にある空白をなんとかして埋めたかった。

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そんなとき、ふらっと入った喫茶店で、とある女性に出会った。
70歳くらいで、背は低くて、くるくるパーマのおばあちゃんだった。

その人は私に「あなたのその服、森に住んでいる妖精さんみたいね」と言った。
"私が妖精!?森に住んでいる!?"
私はとても驚いた。

まだ何も持っていない自分が、着ている服のおかげで、妖精にだって、魔女にだって、あの本に出てくる主人公にだってなれるのだ。そんな毎日、絶対に楽しいじゃないか!
その日から私は、毎日服のテーマを決めるようになった。

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寝坊して急いで食パンを口に詰め込む平日の朝も、ゆったりした休日の朝も、服のテーマを決めるようにしたら、それだけで特別な1日になる気がした。
これが私だけのこだわりだ。

「チュッパチャップスを片手に持つ、陽気な女の子」がテーマの日は、不思議と気分が上がり、自分の感情を素直に人に伝えられた。
「茶道を習っている、静かな女性」がテーマの日は、いつもより背筋がピンと伸びた。
「カフェで本を読む、パリのマダム」がテーマの日は、張り切って真っ赤な口紅を引いた。
「接客は不得意だが、コーヒーが好きなので喫茶店で働く無口な男性」がテーマの日は、寝癖をあえて少しだけ残した。

誰にも言わずに自分だけで決めたルールは「秘密の作戦」のようで、私の毎日のワクワクの材料になった。

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今日のテーマは「ちょっとオシャレに憧れる少年」だ。
このちょっとオシャレに憧れる少年は今日、2人もの人に道を尋ねられた。
これは自慢だ。自慢をしたくて書いている。

「道を尋ねられるって、優しそうな人だと思われたってこと?だって私だったら絶対に優しく教えてくれそうな人に道を尋ねたいと思うよ。嬉しい!しかも、2人も!」

ちょっとオシャレに憧れる少年はやや自意識過剰な部分があるため、こんな出来事があると大袈裟なほど喜んでしまうのである。
なんとも単純な人間だ。詐欺に引っかからないよう気をつけたい。

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服のテーマを決める毎日を過ごすようになってから、あまり自分のことを「本当に私はだめなんですよ」と言わないようにしたいと思うようになった。

口には出さないとしても、自分のことが好きな人は素敵だ。
好きなところもあるしキライなところもある。
でも、これから一生こんな自分と付き合っていくわけだし、だったら好きでいてやってもいいかというくらいの軽い気持ちで、スープを含ませた小籠包の餡が、透き通る皮に包まれ、綺麗なひだを寄せるように、自分をほわっと包んであげようと思う。
そして、せいろに並べて蒸すのだ。

せいろの中が水蒸気でいっぱいになった頃、季節は梅雨に入り、私は「雨でテンションの高い、みずたまり好きな少女」のテーマで服を決め、傘をさして学校へ向かう。

蒸し上がった小籠包の中のスープくらいアツイ夏には、赤いワンピースを着て出かけたい。
テーマはまだ、決めていない。