この人に出会わなければ、今の私はどうなっていたのだろうと思う人がいる。
彼女の名前はMちゃん。地味に無難に生きてきた私に、少しの勇気をくれたのは紛れもなく彼女だと言える。
彼女との出会いは2年前の19歳のとき、場所はSNSだ。
同じアイドルのファンである彼女のアカウントを一方的にフォローしたのは、彼女の愛と勢いがダイレクトに伝わるツイートが面白かったから。あと、なんだか自分と同じにおいがしたからだ。
1か月後突然フォローが返ってきて、話しているうちに年齢と住んでいる都道府県が同じだということが発覚。今度開催される推しの展示会に一緒に行きましょうと決まり、私たちは初めて会った。
一気に仲良くなった私たちは2人でアイドルを追いかけて国内外問わず遠征に行ったり、新曲が出る度にカラオケで公開時間を迎えたり、何もなくても電話したり学校の帰りに居酒屋で飲んだりする関係になった。
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彼女は可愛い。大きな二重の目や整った横顔に加え、こだわりが強い彼女が研究したメイクも、キラキラのジェルネイルも、ブランド物のかばんも、化粧っ気がなくて地味でこだわりのない私とは真逆のようだった。
私たちは身長も体重も平均真ん中でほぼ同じ。私は可愛い服が好きだったけど、自分は太っていて写真映えするような体型ではないと思っていたから、着ようともしなかった服が沢山あった。だからこそ、同じような体型の彼女がおへそが見える丈の服や大胆なショートパンツを履くところを見て、「意外とこんな服を着ても誰かに後ろ指を指されるようなことはないのか」と驚いたのである。
彼女は私に対して「もっとメイクしてみたら?」とかそういうことを言わない代わりに、私が初めてカラーコンタクトレンズを入れたら「そっちの方がいいよ」と言ってくれたし、髪を新しい色に染めたら「かわいいね」とか「ハイトーンも似合いそう」と言って褒めてくれた。
当たり前のことだと言われればその通りだけど、可愛くてちゃんとお金をかけておしゃれしている子に私の微々たる自分磨きを肯定してもらえることが嬉しかったのだ。
SNSを見ていると、キラキラした子は一緒にいる友達もキラキラしている。写真映えを気にするのが当たり前な時代、友達を選ぶときのチェック項目に見た目も含まれていると思うけど、お互い推しを応援するスタンスや性格が合うことが理由で彼女が私と一緒にいたいと思ってくれていることが嬉しかった。
そして、その上で私が他者からの視線を気にせず様々な自分磨きをすることを馬鹿にしたり、マウントをとったりしないことが私を素直でいさせてくれた。
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彼女といるようになってから、私はいくつかの挑戦をした。
カラーコンタクトレンズを入れ、サロンで眉毛を整えて、まつ毛のパーマをした。ネイルサロンで爪を可愛くしてもらった。今までの私なら着なかったであろう短い丈のトップスを着たし、履いてみたかった厚底のローファーを買った。
そして、それらのどれもが鏡の中の私を笑顔にした。友達にも褒められることが増えた。
挑戦が苦手で保守的な私が、理屈よりも行動タイプの彼女とだから海外にも行った。会話の中でも「初めて会ったころのあなただったらこんな行動しなかったよ」と言われることがある。性質の違う友達ができたことで、私は生活が少し変わったのだ。
彼女のSNSアカウントをフォローしたあのときの私は全く想像もしていなかったと思うけど、広大なインターネットの中から人生を変える大切な出会いを拾い上げたことが21歳の今を間違いなく作っていると言える。いつも感謝しています。