私は、都内の大学生だ。これから書く話は、現在から遡ること5年ほど前の話である。そして私の視界を広げた経験だ。

高校2年生になった4月。始業式のオリエンテーションで修学旅行に関する説明会があった。私たちの修学旅行先は、イギリスだった。私にとってヨーロッパへ旅行は初めてだったため、とても楽しみだった。オリエンテーションでは、修学旅行の話とは別に短期留学の説明もあった。修学旅行に1週間行った後、そのまま1か月間イギリスで留学することができた。当時の私は、この短期留学には全く興味が無く、大して話も聞いていなかった。

家に帰宅した私は、両親に学校でもらった修学旅行と短期留学関するプリントを渡した。すると、「短期留学に興味あるなら行っていいよ」と言ってくれた。私は「興味ない」と話を終わらせた。

◎          ◎

私には兄がいる。兄は中学3年生の頃から約3年間留学した。そこで、留学の価値を知っていた両親は私にも勧めてくれたのだ。しかし、私は行きたくなかった。というより、行く勇気が無かった。 

正直言うと、海外にはとても興味があった。幼少期の頃から、アメリカのドラマなどを見たり、兄の留学中の生き生きとした姿をみて憧れがあった。
しかし、憧れだけだった。

英語もまともにしゃべることができないのに、留学……
東京を出て生活したことすらないのに、海外で暮らす……

私には自も勇気も無かった。

「やっぱり行きなよ、留学。きっと良い経験になる。行かないと後悔するよ」
  突然父から言われた。
「大丈夫だから、経験だと思って行ってきな」

こうして私は、短期留学のプロジェクトに参加することになった。

◎          ◎

初回の短期留学オリエンテーション。参加者は15名ほどだった。私の仲が良かった友人は誰一人参加していなかった。そして、他の参加者は仲の良い友人と参加していた。

「ひとりだ……
友人も親もいない中本当にやっていけるのか不安を抱えたまま、修学旅行当日を迎えた。 

修学旅行中は、とても楽しかった。今まで見たことの無い建物や景色。馴染みのない食事。どれも、新鮮で毎日が楽しかった。1週間が1秒に感じるほどにとても充実した時間を過ごした。

修学旅行、最終日。短期留学に参加する人はバスに乗り込み、それ以外の生徒は空港に向かうバスに乗り込んだ。仲の良い親友が「頑張ってね」とハグしてくれた。

「帰りたい。日本食が食べたい。自分の家のベットで寝たい。帰りたい」
バスに乗り込んだ私は泣いていた。

不安を抱えたまま、留学地であるイギリスのブライトンという場所に向かった。ホームステイをして1カ月過ごすことになっていた。そのため、各自のホームステイ先にバスが向かっていた。いよいよ、私のホームステイ先だ。不安な気持ちでいっぱいだった私は、「ホストマザーから明るく迎えてもらえるだろうからとにかく明るく」と意気込んでドアをたたいた。

◎          ◎

そこには、私が想像していた雰囲気とは異なる様子でホストマザーが立っていた。冷静で、どこか冷たい様子で迎えられた。

家に入り、諸々の説明を受けた後、夜ご飯の時間になった。私の他に4人の留学生がいた。全員同じ学校の友達で、留学に来ていた。4人は母国語で会話をしたり、ホストマザー仲良く会話していた。私は、一言もしゃべることが出来なかった。空気になったようだった。

その晩、自分はここでやっていけるのだろうか。そんな不安を抱えながらシャワーを浴びると、冷たい水しか出てこなかった。やり方も分からず、聞くことも出来ず。

こらえていた涙が、シャワーとともに流れた。

次の日、せっかく留学しに来たのだから無駄にしたくない。そう決心し、語学学校に通った。「頑張ろう」不思議とそう思えた。その日から、私は人が変わったように、積極的にコミュニケーションを取り、なんとか馴染もうと努力した。

今考えると、気持ちが抑えられずシャワーで涙した時。涙とともに、不安が流れたように感じた。一人だったからこそ、頑張れたのだと思う。そして、語学学校に通う他の生徒たちの失敗を恐れない様子を目の当たりにしてさらに強く成長したような気がする。

「知らない知識があるのなんて当たり前でしょ?間違えたらだめなんて誰が言ったの?」そんな様子で海外の生徒は授業を受けていた。この環境で1カ月間生活した私は、自に満ちた私に変わっていた。

そして現在、私の良さと言ったら自身に満ち溢れている様子だと周りの子は言う。

私の視界を広げたもの。それは、「海外で頼る人がいない中一人で生活をし、自に満ち溢れた海外の生徒たちと出会った経験」そのものである。