犬屋敷家は、どこにでもある平凡な家庭。
お金持ちでも貧乏でもない。
ただ、「一円でも無駄にしちゃだめだよ」と祖母に言われて育ったので、私はお金を大事にしてきた。
貧しい家庭で育ち、苦労してきた祖母は特にしっかりしていた。
必要なところにはお金を使うが、無駄だと思ったら絶対に使わない。
「無駄遣いすると、あとで絶対に困るんだからね」と、よく父と母に言い聞かせているのを見てきた。
だからこそ、私は進路で悩んだことがあった。

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一度目は、高校卒業後の進路。
高校3年生のとき、都内の4年制大学と短大に合格していた私。
短大に関しては、アメリカへの2ヵ月間の語学研修行きが決まっていた。
英語を学びたかった私は、アメリカへ行ってみたいという気持ちが強かったので、短大の方に進みたいと思っていた。
でも、受かっていた大学よりもお金がかかることを気にしていた。
そんなときに祖母が「アメリカへ行きたいんだろ?ばあさんが何とかするから大丈夫!」と言ってくれた。
私は、大好きな英語を学ぶことができただけでなく、生まれて初めて海外へ行くこともできた。

二度目は、短大卒業後の進路。
私の周りの同期には、就職や留学をする子たちが多かった。
そんな中で私はまた、悩んでいた。
当時の私は、自分が働く姿をまだ想像することができなかった。
それに、もっと幅広く英語を学びたいという気持ちがあった。
入学してから、学内推薦での編入学制度を知り、挑戦したいと考えていた。
同じキャンパス内にある大学は、高校のときに受験で落ちてしまった、第一志望の大学だった。
推薦が決まれば、2年間だけではあるけれど、その大学で学ぶことができる。
勉強を頑張ってきたので、成績は推薦圏内に入っていた。

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でも、また経済的な面で不安になって、私は立ち止まってしまった。
短大に入るときにも、祖母には迷惑をかけた。
これ以上はさすがにと、諦めようかという考えが頭をよぎった。
帰省したときに、編入学のことをおそるおそる家族に話した。
「行きたかった大学なんだろ?2年間学んできな」と、また祖母が助けてくれた。
その後、私は無事に学内推薦を勝ち取り、編入学することができた。
大学では広く深く英語を学び、有意義な2年間を過ごすことができた。

祖母は若い頃からコツコツ貯めてきたお金を、私の進学のために使ってくれた。
「家のことは気にしなくていいから、自分のやりたいことをしなさい」
そう背中を押してくれた祖母には、感謝しかない。
「こんなにお金を使っちゃって大丈夫だったの?」
社会人になってから、私は祖母に聞いた。
「大丈夫、ばあさんはいっぱい持ってるから」と冗談を言って笑いながら、祖母はこう続けた。
「みちるちゃんの行きたい所で、思い切り学んでほしかったんだよ」
学校へ満足に行けなかった祖母。
同じ思いをしてほしくないからと、精一杯私を支えてくれた。
私のことを「犬屋敷家の希望、ばあさんの宝」と嬉しそうに言っていた、祖母の顔が今でも忘れられない。