離婚したらいいのに。
これは両親、特に母親に対して、幾度となく私が思ったことだった。

我が家は、家父長制なところが強く、父が絶対的な権限を持っていると言っても過言ではない。年をとって、父はだいぶ丸くなったが、私が幼い頃はもっと酷かった。父がお酒を飲んで、母親に対して怒鳴っている。そこらじゅうのものを投げつけている。母親はただ泣いている。何度も見た光景だった。喧嘩は対等な相手がするものだろうから、もはや夫婦喧嘩でもなかった。

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そして、父親に責められた後、母親は必ず私に死にたい、と訴えてくるのだった。物心ついた頃から、たまに起きる出来事だった。私も惨めだった。自分では何もできない。父は怒っている、母は泣いている。悪夢でしかなかった。小さい頃の私にとって辛い出来事だったけれども、年を重ねるにつれ日常茶飯事になりつつあって、ただめんどくさいだけだった。

小学校中学年くらいになって「離婚」という概念を知ってから、私は母親に離婚を勧めるようになった。具体的なことはわからなかったけれど、父親と母親が一緒にいなければ、あんないざこざを防げると思ったのだ。しかし、母はいつも「離婚したらここには住めんよ」とか「子どもがいるから別れられんよ」といった。私は、特に両親の人生が子どものせいで不愉快なものになるのがたまらなく嫌だった。子どものせいにしないで、と心の底から思った。

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中学生になって、「離婚」をネットで自分でいろいろ調べることができるようになって、私は何度も母親に離婚を勧めた。離婚について、子どもなりにいろいろ調べた。子どもが親を選べること、貧しくなるかもしれないけれど、父から養育費をもらえること……。離婚をしたら、母親はいじめられなくてすむし、死にたいなんて思わなくてすむ。母を説得して、無料の法律相談所まで足を運んだこともある。母親は体面を気にしてか知らないけれど決して、家庭内の状況の全てを話すことはなかった。何のために行ったの?思ったけれど、離婚しない理由づけを、若干幸せな家族を演じることでしたかったのじゃないかと思う。  

離婚は家族の事件かもしれないけれど、それ以前に夫婦という2人の人間の事件だと思う。離婚をしたって、子どもが片親と会えなくなるわけではない。地域に住めなくなるなら、そんなところ出て行けば良い。今の時代、どこにでも住み移ることはできるだろう。体面とか、子どものせいにして、悲劇のヒロイン、ヒーローに勝手にならないでほしい。悲劇に巻き込まれているのは、あなた1人じゃないんだよ?周りの人のメンタルヘルスも考えてほしい。

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人間は変わるし、ずっと一緒にいる中ではじめには夢にも思っていなかった一面に耐えがたくなることもあるかもしれない。人生100年と言われる今、仮に30歳で結婚しても、人生の3分の2以上を同じ人と過ごすことができるだろうか?結婚は、法律で保障され金銭的な影響をもたらすが、人間関係の一種類でしかない。友達が時がたって疎遠になるように、ずっと一緒にいる必要もないのではないかと思う。結婚も離婚も、人生を豊かにするためにあるべきだ。誰かを束縛するものではあって欲しくない。

私が小学生の頃に比べてシングルの世帯も増えているし、離婚もそこまで珍しくなくなっているのではないかと思う。個々が豊かな生活を、人生を送れるように、離婚という選択肢がもっと、軽いものになってほしいと思う。子どもながらに、両親の不仲に悩んで辛い思いをする子どももいなくなるように。