「行っちゃえば楽しいんだけどね?」の人生版をやっている。
どういうことかというと、少し先の未来を想像すると、楽しいとか嬉しいとかポジティブな想像の10倍、あれが起きたらどうしよう、こうなったらどうしよう、と不安が生まれる性格をしている。

道理としてはこの反応は正しいはずで、それもそのはず、楽しいとか嬉しいとか「感情」の類は、いざその環境に置かれたときに私が得るものであって、想像したって何1つ確信は持てないからだ。

書きながら、では楽しいんだろうなと想像できる行為にフォーカスすることで、少しはバランスが取れるのでは?と思ったが、自分が過去楽しかった行為を繰り返すことでバランスが取れる事態ばかりではないので、努力目標としつつ今回は棚に上げる。

話がそれたが、そういう性格をしているおかげで、人も環境も経験も、とにかく未知のものに挑むのが億劫なのである。

一方で、人生最大の「やってみたら楽しかった」である現在の恋人との付き合いは、あのときやらない選択をしていたらと想像すると恐ろしいほどの幸福を得てしまっているので、やってみたいことをやらないのも怖い。

棺桶に入ったときに、胸の前で手を合わせられ、下がり気味の口角を上げなければと映りを意識しながら、「あれをやっておけばよかった」なんて思うのだけはゴメンである。たぶん、そういう感情が呪縛霊を生み出す。心から「やってみちゃえば楽しいんだろうな〜」と思いつつ、いざ現実になりつつあると億劫になる、面倒な性格をしている。

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最近では、仕事がフルリモートになって久しいので、都内からほんの少し離れた場所へ引っ越しを考えている。新卒から3年恋人と同棲をしてきたが、彼は会社移転に合わせて最寄り駅を変えるらしく、私は都心を離れ、自然の多いところに引っこもうかと計画している。
海なし県で育ったおかげか、海がある暮らしに小学生の頃から憧れていた。都心に通える距離であり、海が近くて、街の雰囲気が好みである街に狙いを定め、ここ半年くらいずっと家探しをしていた。

家賃、エリア、その他条件。そのどれもが納得できる家に出会えたのは年明けのこと。不動産屋で申し込みを済ませて、審査を待つ。結果はまたLINEでお伝えしますとのこと。

2日後に審査に合格したとLINEがあったが、どうしてか既読にできなかった。3Dタッチで内容だけ確認すると、あとは明日の自分に任せる。

実は、今回が人生初のひとり暮らしと言っても過言ではない。

大学4年間は学生寮で暮らし、社会人になってすぐ、ブラック企業勤めだった私のご飯を作りに、コロナ禍入社で自宅待機だった彼が度々ご飯を作りに来てくれるようになった。そのままなりゆきで同棲が始まり、3年。

3年そばにいた人と、結婚してもおかしくない年齢で別々に暮らす。正直なところ、楽しみ!という気持ちだけではない。不安と楽しみと複雑な気持ちを抱えて、それでも今のままじゃ嫌とか、ひとり暮らしってものをしてみたいとか、海のそばに住んでみたいとか、後回しにされがちな「重要だけど緊急ではない」願いを叶えようと今回の決断に至った。

ただ、一瞬で返信できるほど、まっしぐらになっている訳でもない。重心はかなり後ろにかかっている。自分でも、頭の中がごちゃごちゃで混乱している。

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一歩足を踏み出せずにいる自分に、ひとつ対処法を見つけた。それは、億劫な連絡を保留しそうになったら、電話に出てしまうことだ。

返信できないLINEのほとんどは、とっくの昔に返答は決まっていて、それを過不足なく、誤解させないよう、相手の感情に気をかけつつ返事をするエネルギーがないだけだ。答えは既に分かっている。それなら、言葉を発するしかない環境に身を置けば、瞬発力とコミュニケーション力でどうにかできる。

管理会社からのLINEの翌日、普段は電話番号を検索して相手を確認してからしか取らない着信に応答してみた。管理会社だろうなと思ったから。それと、今なら話せるかもしれないと思ったから。

管理会社からの連絡事項を聞き、申し込み時に聞きそびれたことすら聞けた。LINEだと億劫なやりとりも、勇気を出せば一瞬だった。瞬発力とコミュニケーション力を発揮すればできる。この「たぶんできる」は、未知を恐れる自分にとってものすごく大切な感情だと思う。

こうして、私の引越しはまた1歩前進した。

初めてのひとり暮らし、念願の海街暮らし。大好きな家具を1から揃えられるなんて、と最近はずっとIKEAとニトリ、無印のサイトを見ている。

1人になって、目の前の人を気遣う必要がなくなって、私と話をする時間が増えて。その時私はどんなことを話してくれるんだろう、どんな時間の使い方をするのだろう。変化が楽しみで仕方ない。きっと楽しめるはず。

もちろん、3年過ごしてきた2人暮らしが終わる、寂しい気持ちもある。きっとしばらくはこんな感じで、頭で出した最も楽しそうな道、正しそうな道へ、変化を怖がる心を引きずり込んでいかなければならない性格なのだと思う。

何度かの「やってみちゃえば楽しかった」を繰り返して、「重要だけど緊急ではない」願いにアンテナを張っていきたい。フットワーク軽く「やっちゃえば楽しいんだけどね〜!」と言いたい。