世の中の男女が心躍らせるバレンタイン。
当時中学生の私は、間違いなくそのうちのひとりだったと思う。

さかのぼること15年近く前の、私のバレンタインの思い出。

その頃、学年一のイケメン(私調べ)に片思いをしていた。誰が見てもわかる好青年の彼。

ただ、ロミオとジュリエットのように身分が違う……というほどでは無いが、彼と私は生きていた世界が異なっていた。
私はいわゆる「陰キャ」。一方の彼はいわゆる「陽キャ」。正反対の世界の住人だった。

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彼は、サッカーをはじめとする運動全般が得意。しかも勉強もできて頭もいい。挙句の果てに顔も良い。周りからの人望も厚く、あまりにも完璧すぎる人だった。

一方の私はと言うものの、昔から引っ込み思案で顔はもちろん良くない。勉強はそこそこできていたつもりだが、運動は下から数えた方が早いぐらい。あまりにも真逆すぎる。

陰キャと陽キャは、よっぽどでないと生きていて交わることはない。
それを体現するかのごとく、私と彼はほぼ関わり合いがなかったのだった。
そりゃあ、完璧な彼とそうでない私は釣り合わないですよね。知ってました。

その中でも、どうにかして「彼に想いを伝えたい!」と思った私。
ちょうどそのタイミングでバレンタインという運命の日が近づいていた。

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このチャンスを逃すまいと、私は不器用ながらも、夜な夜なチョコの試作を重ねた。
そして、割と自信作な本命チョコが完成しつつあった。

ところが、前述の通り生きる世界が真逆な私たち。彼にチョコを渡したくとも、根本的に彼の連絡先すら知らなかった。これじゃあ呼び出したくても呼び出せないじゃないか。

そこで、彼の連絡先を知っている友人に協力を要請した。彼女を経由して「バレンタインのチョコを渡したいから会ってくれないか」と伝えてもらうことに。

その作戦は成功したものの、彼からは「ごめんなさい」という旨の連絡があったとのこと。もはや会ってすらもらえなかった。
この瞬間、私の数ヶ月に渡る彼への片思いは終了したのだった。

当時14歳、中学2年の冬。人生初のまともな(?)失恋だった。

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夜な夜な試作を重ねて、わりと自信作だった本命チョコ。
「想いだけでも伝わるように」と、作った本命チョコ。
それでも、行き場を失ってしまった、私の人生初の本命チョコ。
その割には、どんなものを作ったかちっとも覚えていない本命チョコ。

結局そのチョコは、半分手伝ってくれた友人にお礼を兼ねて渡した。
そしてもう半分は、苦い思い出と共に私の胃の中へと流し込んだ。甘いのに苦かった。

この時以降、いわゆる「本命チョコ」というものは誰にも渡したことがない。
今のところ、この時が最初で最後のチャンスだった。

あまりにも甘酸っぱくて、あまりにも苦い思い出。

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それから15年近く経ったつい最近のこと。バレンタインが近かったからか、ふと彼が夢に出てきた。

夢の内容はある意味壮絶なものだったが、あの頃と違い、夢の中の私は彼とまともに会話をしていた。現実の私ではありえなかったことだ。

夢の中で話していた彼は、相変わらずかっこよかった。
「面食い」と言われたって構わない。だってかっこいいんだもん。

その夢を見た日はしばらく、あの青春の甘酸っぱく苦い思い出に改めて浸っていた。

それとともに、今何をしているかもさっぱり分からない、彼へと想いを寄せていた。

三十路の大台に乗る年の冬のことである。