大人になって本命チョコを渡したのは初めての経験だった。その初めての経験を私はつい数日前にした。

学生時代はよく友達同士で義理チョコを送り合ったり、好きな男の子に緊張しながら渡したりしていたので、バレンタインというと甘酸っぱいというのが一番に思い浮かぶ。

しかし高校を卒業して数年はバレンタインなど渡す相手もいなかったし、社会人になってからは同棲していた元彼氏に簡単なものを作ってその場で一緒に食べるというのが三年も続いていたので、この歳になって気になる相手に渡すというのはすごくエネルギーがいることだとやっと気づいた。

その相手というのはマッチングアプリで知り合った関西人なのだが、連絡はずっと取っていたのに、お互いのスケジュールが合わず出会って四ヶ月目にしてやっと会うことができた念願の相手だった。彼は本当におしゃべりで、ゴテゴテの関西弁で早口で話す上、光の速さでボケツッコミをしてくるので話に追いつくのがやっとだった。

しかし、彼のそんな明るすぎる性格に徐々に惹かれていったのだ。

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ドライブしてる時にふと私が今日食べたセブンの生チョコが美味しくてね、と話し始めたら彼が突然行き先を変更してセブンに生チョコを買いに向かったのがことの発端。彼は根っからの甘党で、彼曰く、その辺の女子より甘いの好きやしほんまに詳しいで?とのことだった。

強面でガタイのいい関西弁の彼がそこまで甘党だったとは思わず、あまりのギャップにとてもびっくりしたのを覚えている。スイーツの中でも生チョコが一番好きと言っていたのを聞いた私はちょうど数日後のバレンタインにチョコを作って渡そうと思ったのだ。

私は料理も苦手だし、お菓子作りももっぱら出来ないのだが、生チョコくらいなら人並みに作れるだろうと思い、材料を買いに行った。何度か失敗し、予定の倍以上時間がかかった。

いざ完成しても渡すべきか否か悩んでしまった。付き合ってもいないのに手作りチョコをもらって嬉しいものなのだろうかと何度も考え、渡すのを躊躇してしまった。

しかしここで渡さないと後悔するかもしれない、悩んだ結果私は大きくカットしたものを小さめにカットし直し、ラッピングも控えめなものに変えて、あまり本命感が出ないようにして渡すことにした。

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チョコを緊張しながら渡したらとても喜んでくれて、その場で開けて食べてくれた。

その日のデート中はことあるごとにチョコありがとうね、と何度も言ってくれた。自分が大人になってからこんなに初々しい気持ちでバレンタインのチョコをあげる日が来るとは思わず、新鮮な気持ちが思い出せた。

彼に何チョコ?と聞かれた時に照れてしまい、義理だよと言ってしまったことは少し後悔しているし、チョコをあげても関係性は何も変わっていないけれど、少しだけ彼との距離は縮まった気がする。

そして何よりも心があったまるほんのり甘い時間を過ごせたので、それで十分思い出になった。