私の視界をひろげたものは去年の夏頃から始めた地元のショッピングモールでのバイトだ。

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大学は夏休みに入り、サークルも就職活動も終え、何か新しいことに挑戦してみようと思っていた時に見つけたのが、ショッピングモールのインフォメーションの求人。ショッピングモール内の店舗でのアルバイトは想像がつくが、インフォメーションのスタッフって何をしているのだろうと気になった。

そういえば昔、ショッピングモールに傘を忘れた時に一度インフォメーションのような総合窓口のカウンターに立ち寄ったことがある。「傘を忘れてしまって」と伝えると、CAさんのような衣装を着た綺麗なお姉さんが「こちらですか?」と傘を渡してくれた。

普通に買い物をしていたら気づかず素通りしてしまう場所だが、困ったときに助けてくれるお客様の味方的な存在だと思い出した。そんな存在意義やバイトとしてのマイナーさに惹かれ、おしゃれな制服も着られるのでは!という安易な興味もあり応募することにした。

内定している就職先では営業や窓口業務を担当するためインフォメーションの接客対応は今後の役に立ちそうだという半分建前の志望動機を用意して面接に臨み、無事勤務することが決まった。

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インフォメーションの業務は想像以上に多岐にわたっていた。お客様に対する窓口対応や電話対応、落とし物の管理や遺失物の承り、イベントや迷子・お呼び出しなどのアナウンス放送、ポイントカードの手続きなど覚えることがたくさんあった。

ほとんどがお客さんへの対応であるが、働いていて一番驚いたのは「常連客がいる」ということ。私が働いているショッピングモールは都心から離れた田舎で地縁的な繋がりも深いため自然とお客様との距離が近い。飲食店などで常連客はよく聞くが、インフォメーションにも常連客がいるのかとはじめは不思議な感覚だった。

インフォメーションのスタッフの中にショッピングモールが開業したときから勤務しているボス的な存在の方がいる。そのボスは本当に顔が広く、ショッピングモールで買い物しているほとんどの人が友達なのではないかという勢いで知り合いが多く、そのボス目当てでインフォメーションにいらっしゃって世間話や近況を報告しにくる常連客が多い。

ボスは生まれてからずっと地元で過ごし、その活発な性格から人脈が広く、地元の老若男女すべてに分け隔てなく接する。私はここまで多くの人に囲まれて愛されて温かい人に出会ったことがなく、ボスの人柄や環境に魅了された。そしてボスを中心に生まれるこの地元のコミュニティや多くの人々の繋がりに大きく影響をうけた。

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私はこれまで人に冷めていた。というか、かなりひねくれていた。学生時代は女子校で過ごし、恋愛や結婚にまったく興味がなかったし、友達もサバサバした人が多く、面倒くさい関係は避けてきた。

小さい子どもの扱いも苦手だ。そのため結婚も出産もまったく願望がなく、どちらかというと家庭より自分の仕事、自分のやりたいことを極めたいと考えていた。周りの同世代の女の子たちが恋愛の話題で盛り上がっている様子をどこか斜めから見ていたし、恋愛や友情などの類をちょっぴりばかにしていたというか面白くないと思っていた。

インフォメーションのバイトを始めて、ボスとボスの周りの人々に出会って、そんな私の考えは180度変わった。ボスは家族や友達をなによりも自分よりも大切にする人だ。ボスの家族もボスの周りの常連客たちの家族もみんな幸せそうだった。

私がバイトを始めてから何人かの常連客が結婚や出産を経験した。地元の人々の人生体験をボスと共に見届けていくうちに大切な人と温かい関係を築き、コミュニティをつくることがこんなにも豊かな表情をもたらし、幸せをもたらすのかと気づかされた。困ったときに助け合い、一緒に生きる人がそばにいることが人々を温かくするということを学び、私もだれかのために生きたいと初めて思った。

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今となっては、私は誰よりも結婚願望があり、今までまともに恋愛をしてこなかったことを後悔しているほどだ。これまでばかにしていた恋愛や家族愛の映画やドラマに誰よりも大号泣してしまう自信がある。珍しくて始めたバイトひとつで人生を変えるほど心が変化し、視界を広げる体験に出くわし、人生って面白いなと感じた。