ふと、井戸水を汲み上げるように、古い記憶を掬いあげてみる。すると、思い出されるのは、プレゼントをもらったときに、恥ずかしくて「ありがとう」が言えない幼い頃の私だ。嬉しい気持ちで心の中は満たされているのだけど、相手の顔をうかがってしまって、母の背中に隠れてしまうのもしばしばだった。
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そんな人見知りな私であるが、大学生になり、一人暮らしをしている。一人暮らしは自由がある反面、一人で過ごす夜は、雪のような静けさが伴う。しかし、家族や友人にも都合があり、毎日会ってはいられないのが実情である。
人見知りなのに寂しがり屋な私は、最近になって、友人や家族以外の誰かと会ってみたい、と思うようになった。知り合いの輪が広がって、コミュニティに所属することができれば、寂しい思いはぐっと減るはず、と思ったのだ。
そこで、イベントを検索し、参加できるアプリであるPeatixを利用して、ドキドキしながら、神保町でのブックイベントに参加することにした。
そのイベントは、8人くらいで集まり、神保町にある古書店を一時間程度で巡りつつ、巡った後に推し本を語るという趣旨のものだった。
時間通りにぴたりと参加者が揃い、自己紹介から始まった。口々に、出身地や好きな本のジャンルが述べられてゆく。
自己紹介をするとき、私は人と目を合わせることが苦手なので、相手の口元あたりを見るようにしている。不思議なことに、相手は目線が合っていると感じられるため、人見知りさんにおすすめな方法である。
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自己紹介を終え、冷たい霧雨が降り注ぐ中、迷路のような古書店街を歩く。参加者は皆、一度同じイベントに参加したことがあるらしく、顔馴染みな様子だった。ちょっぴりアウェー感を抱きながら、まだ見ぬ出会い本を楽しみにする。
ある古書店に入り、頬に暖房の温かさを感じながら、人文系や小説の棚の前にいると、驚くことに、参加者が次々と話しかけてくれた。雨だれのような、穏やかな雰囲気が流れる。
「普段、どのような本を読まれますか?」
「良い本は見つかりましたか」
「小説や、児童文学作品が好きです」
「いえ、まだ出会えていません」
柔らかな雰囲気のおかげか、私もすとん、と素直に、微笑んで会話できた。
その後、レンタルスペースを借りてブックトークを行った。テーブルを囲むように座り、ひとりひとり持ち寄った本の良いところ、印象的だった点を話してゆく。
会社のプレゼンテーションに慣れているのか、すらすらと話している人もいれば、穿つように、言葉をじっくり選ぶ人もいる。
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私といえば、ブックトークをしている本人に、質問をしてみたり、感想を進んで述べたりするなど、なんと人見知りらしからぬ行動をすることができた。
どうやら、「読書」という趣味を盾のようにかざすことで、一枚の衣のようなもの(正装する感覚に近い)を纏うことができるので、それが強みになり、推進力となるらしい。
ここで、「好きなこと」や「趣味」を介せば、人見知りでも初対面の人々と、打ち解けやすいということに気づいた。ブックイベントの参加者の中にも、普段は大人しそうな方達が何人もいらっしゃった。しかし、彼らは獅子のように堂々と、そして情熱を秘めた説明をしてくれたように思う。
人見知りさんに、図々しい人を見かけないと私は思っている。会話すれば、清々しい好感を得られる人ばかりだ。あなたを嫌いになる人はいない。それどころか、受け止めてくれる存在が、たくさん存在する。
一歩外に踏み出せば、世界は案外、ほろほろとした優しさで満ちている。
「好き」を味方につけて、知らない世界をちょっと覗いてみてはいかがだろうか。