ニュースで報道されている世の中での出来事って、どこかの誰かの話をしているみたい。まるで他人事だ。もちろん、天災が起こった時には「明日は我が身」と、肝に銘じている。

呑気に平凡に過ごしていた矢先、自身の住む地域で事件が起こった。一報を知ったのは、親戚からのLINEだった。「○○で事件発生。恐いね」。え?どこで?なんで?頭が混乱して、ネットニュースを検索した。驚いた。地域のネットニュースに、速報で流れていたからだ。「本当なんだ」と信じられなかった。ニュースが他人事から「自分事」に急変した瞬間だった。

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容疑者は逃走を図り、行方をくらましているという。犯人が身近に潜伏しているかもしれない。地域内放送があり「犯人が逃走中のため、戸締りを徹底して下さい」と呼び掛けがあった。窓や玄関のドアの鍵閉めをしっかり確認した上で、お風呂やトイレ、ベッドに入ったが恐怖は押し寄せる。セキュリティ面は万全ではないからだ。凶器を用いて窓を破壊されたら太刀打ちできない。入浴中に侵入した犯人に出くわしたら、死んだふりをすべきか、抵抗すべきか。死んだふりをして、犯人に見破られないか。以後、不安な夜を何日も過ごすこととなる。

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あくる日、会社に出勤すると「犯人の実家はあそこでね」などと、犯人に関する情報を同僚が教えてくれた。さすが田舎。世間の狭さからあっという間に個人情報特定の噂が流れた。ネットニュースに掲載されていない最新情報まで。

久しぶりに連絡を取ったり、会食をした友人との話題にも、度々挙がっている。 

「ニュースでの情報から、犯人や被害者の年齢的に、自分の家族が巻き込まれているかもしれない、と焦ったよ。すぐに家族に連絡して、無事を確認したよ。こういう時に返信が遅いと不安になるよね」

「この前、全国ニュースで観たから、今地元がどうなっているのかが気になるよ。だから久しぶりに帰省したい。事件の概要を見て驚いたし、犯人が捕まっていないのは恐いね」

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他、事件現場付近の美容室に行った際、美容師に事件後の客入りの変化を質問をしたことがある。

「お客様の足が一時的に遠のく心配はしていました。しかし、お客様は以前と変わらずに来て頂いています」

日常の生活が営まれていることに、少し安堵した。美容師との話には続きがある。
「この地域も、事件の影響で全国ニュースに流れて、一時期話題になりましたね」

苦笑いしながら、美容師は言った。「そうですよね、良いニュースで全国デビューして欲しかったですけどね」と返事をした。本音である。

事件から数ヶ月経ってもなお、事件現場であるお店は営業を再開していない。たが、数ヶ月後には営業再開予定、との噂もある。根拠のない噂をどこまで信じたら良いかは分からないが、待ち望みたい。出来れば営業再開までに、犯人が捕まり、平和で安心できる環境が整っていてほしい。明るく優しい出来事で、再び地元がニュースに取り上げられる日が来ることを願う。