私は現在、整理記者という仕事をしている。
ほとんどの方は知らない職業だと思う。
整理記者とは、新聞の記事に見出しをつけ、文字や写真のレイアウトを決める仕事だ。取材記者が書いた原稿から、適切な見出しを考えていく。内容を正しく端的に伝えられて、興味を惹けるような文言を選びとる。
そしてその見出しと記事と写真を、1ページの中に収めていく。ただ配置すればいいというわけではなく、新聞独自のルールに従い、読みやすさを意識し、それでいて目を引くレイアウトにしなければならない。

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他社のことは知らないが、私が働いている会社ではこの作業は全て専用のソフトで行っている。WordやIllustratorのような多くの企業で使われているソフトは、整理記者は使っていない。
この仕事を始めてもうすぐ2年経つが、これほどAIに奪われそうな仕事もなかなか無いな、と思う。

見出しに関しては、記事を入力すると自動で生成してくれる機能が既にリリースされている。
私も使ってみたことがあるのだが、ある程度の要旨はつかめている見出しが生成された。しかも「32文字」「13文字」など、使う場面に合わせて数パターン提案してくれる。そのまま使うにはまだ心許無い出来だと感じたが、数年もあればその点に関してもクリアしてしまうのだろう。ここ最近のAI技術の進化を見ていると、そう思わざるを得ない。
レイアウトをしてくれるAIの存在は聞いたことがないが、作ろうと思えば簡単に作れてしまいそうだ。新聞のレイアウトには様々なルールや注意点があるが、それも含めてこなしてくれちゃうような気がする。

この仕事に限らず、AIに完全移行するのはだいぶ先のことなのだろう。
とはいえ近い将来、必要人員が減っていくのは間違いない。見出し生成AIの精度が上がれば、人間の仕事は生成された見出しを確認、必要があれば修正する、といった方向に変わるだろう。1から見出しを考えるのに比べたら時間を短縮できる。よって、1日に1人が担当するページ数を今より増やすことが出来る。そうなると、会社側は部員を削減しようと考えるのが自然だ。

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取材記者をやっていた社員が異動になって整理記者もやっている、というケースもあるが、私は本社採用ではないため、基本的にはずっと整理部にいることになる。
入社してからずっと、整理以外の仕事はやったことがない。Excelの使い方も分からない。社外の人に会う機会どころか、メールや電話でやり取りしたことすらない。同世代の人達が着々と社会人スキルを身につける中で置いてかれているような感覚になる。そもそも私は社会人としての常識や力が無い側の人間だから、なおさらだ。
こんな状態でお役御免になったら、と考えるだけで恐ろしい。さすがにクビになることはないかもしれないけど、仕事内容も勤務先も違う部署への異動を命じられる可能性はあると思う。それに対応できる力があるならしたいが、整理しかやってきていない自分にこなせるだろうか。

それに、私は整理の仕事が好きだ。
見出しを考えるのも、綺麗なレイアウトを見つけ出すのも。出来ることが少ない私にとっては天職だと思う。出来ればこの仕事を続けていきたい。
だからAIにはもうしばらく、大人しくしていてほしいんだけど。SNSで流れてくるAI生成の写真や動画の精巧さからすると、それは無謀な願いなのかもしれない。