まただ。また不毛な恋愛に片足突っ込んでるじゃん。
こんな自分とはさよならするつもりだったのに。
この間、新宿2丁目のバーで会っていい感じになった子とまだやりとりをしている。彼女は日本には観光に来ていて、もう母国に帰っているのに「また会えたらいいね」なんて送ってしまった。
彼女にとても惹かれて、“普通の”シチュエーションならこれから関係を深めていけるかもしれないが、初対面で友達以上のことをした上にいきなり遠距離なんて、何も始まるわけがない。どうせ、だらだらとメッセージだけ続けて、だんだん連絡の頻度が減って、フェードアウトするんだろう。
これがお決まりのパターンだから、もうわかってる。
その後に残るのは、いつも虚しさだけ。
それでまた誰かを求めてしまう、負のスパイラルだ。
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自分が心から求めているのはこういうことではないとわかっているのに、こんなことを繰り返している。2丁目に行くと、魅力的な誰かにクラッシュを起こし、その場の雰囲気に飲まれて、自分らしくないことばかりしてしまう。もう自然な恋愛の始まり方だってよくわからなくなってしまったし、いつもただお酒の勢いですべてをぶち壊してしまうから、結局長期的に続く関係が始まることもなかった。
もうこんなことを繰り返していられない、という思いもあって一時はある人と真剣に付き合い始めた。しかし、どこか自分がぐらぐらしていて、その関係が自分には負担に感じるようになってしまった。
だから私は罪悪感に耐えられず、整理しきれていない気持ちを一方的に伝え、関係を終わらせてしまった。とても誰かを幸せにできるような状態ではなかった。
そんな別れから1か月程経ったとき、電車の中でスマホを開いたときに自然とマッチングアプリを開いていた。
こんなに人も自分も傷つけているのに、なんで自分はいつも恋愛を求めてしまうんだろう。
いつもは家で仕事して、たまに人に会い、たまに山登りなどアウトドアなこともして、たまにお気に入りのカフェで読書をする。定期的に会って他愛もない話に付き合ってくれる友人もいるし、両親も電車で3時間の距離にいる。
十分いい人生送ってるじゃん、何が不満なの?
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もともとコロナ禍で在宅だし楽だからと始めた仕事だが、毎日独りで誰とも口を利かずに1日を終える日々には疲れ切っていた。日本で就職する前は海外に行って生活することを夢見ていたが、コロナ禍で断念を余儀なくされた。
海外に出たかったのは、自分の考え方や性的嗜好を気にしないで済む場所を見つけたかったから。もっといろんな世界でいろんな考えに触れることで、がらっと自分の人生を変えてみたかった。そして見たことのない景色を自分の目で見たかった。
家族からの「いい会社に入って、いいお給料をもらって、早く“ちゃんとした”相手を見つけて安定しなさいよ」という決まり文句や社会の風潮は、私には辛いものがあるし、それを気にしてしまう自分のマインドも変えようと思った。たくさんの刺激を求めてここから出よう、と思った。
でも、コロナ禍が明けた今でも、仕事に慣れてきたし、友人もいるからと理由をつけて何となくそのまま日本に留まっていた。生まれ育った国は結局住みやすいし、ここでもいろいろ挑戦はできるし、少しの我慢さえしていれば私だって楽に暮らしていけるから、と。
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しかし、20畳ちょっとの1Kの部屋でいつもぽつんと仕事をしていて、かたかたとパソコンをたたいているとき、自分の中の何かが爆発しそうになることがある。
「違う、私は」
私はいろんな世界に行って、いくつになっても冒険をしていたい。
自分が本当に愛する相手と堂々と一緒にいたい。
お給料が低くても、自分がやりたいことをできればそれでいい。
だから、我慢をして、代り映えのない暮らしをしているだけの私にとって、恋愛は「刺激」だった。ドキドキや求められている感覚を与えてくれる、ある意味抜け出せないドラッグみたいだった。このドラッグを使ったあとは、虚しさ、孤独、消耗感、絶望、無力感、そんな感じの言葉を全部かき集めたみたいな最悪な気持ちに襲われる。
これは完全に行き詰っている。もう抜け出せよ、自分。
私はついに上司に退職の旨を伝え、海外行きを決めた。アプリも消した。
この自分と決別して、新たな刺激を求めてここから抜け出そう。
自分らしく生きていくために。