真夜中の連絡って、蜜であり毒のよう。大抵、一言だけ。
「起きてる?」「もう寝た?」「今何してる?」
何か返さなきゃ真意が見えないから、既読にするか未読のままにするか、迷う。一言返した後に分かる真意が、私にとって嬉しい時もあれば悲しい時もある、ちょっぴり危険な時間。

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20代前半の私にとって、真夜中に届くLINEってなんだかドキドキした。恋人、良い感じの人、友達。誰から届いても、すぐ既読。返ってくる言葉は何だろう?何を考えて、連絡をくれたのだろうと、少し眠くても、絶対に既読にしてた。

「電話しよう」「今ここに居るんだけどこれから飲まない?」
そんな風に嬉しい言葉もあったし、時々不快な事だってあった。全然好きでもない人の電話に付き合わされた事もあるし、結局返信がなかったり。何なのよもう…と思いながらも、人の気配を感じない真夜中の連絡は内緒話をしてるみたいで楽しくて、基本未読にすることなかった。

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でも、少し前の事。久しぶりにできた恋人から来た「起きてる?」のLINE。普段、言葉少なにしか送ってこない彼から、こんなLINEは初めてだった。もう12時も過ぎている。真夜中に私と彼を繋ぐ4文字はやっぱり内緒話みたいでドキドキした。

ベッドの中から「もう寝るところだけど、起きてるよ」と返して、何と返ってくるだろう?と、既読の文字がついた画面を見ながら待つ私。「今終電で帰ってるんだけど、家行ってもいい?」ドキドキした気持ちが萎えていくのが分かった。

20代前半ならドキドキしたかもしれない。恋人からで、会えるんだって。でも私はもう6年近く社会人をしているアラサーの大人だ。変に知識を蓄えて、色んな経験をしてきてしまった大人の女だ。28歳の恋人同士。真夜中に家に行きたいという連絡。その言葉の持つ意味など、分かりたくなくてもよく分かる。それが、お酒の勢い、送られてくる。

28歳で大人の女でも、なんて悲しいのだろう。大切に扱われていない感覚が私を満たした。

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大人の恋人同士とは、そういうものなのだろうか。大人になればお酒の勢いでしか言えなくなる言葉もある、分かってる。でも、そこまで親密に慣れていない時期に、お酒の力を借りたとしても、言ってほしくない言葉だった。

それから、どんな言葉でも真夜中の彼からの連絡は未読してしまうようになった。結局、なんだか彼の事を受け入れらなくなり、関係を解消してしまった。

あの時、未読のまま、翌日「寝てた、何だった?」と返しておけば、彼との関係は続いていたのかな、と思い返す時もあるけれど、きっと結局は続かなかっただろう。あの真夜中の一言で萎えるほどの恋が、一生の愛になりうるわけがないのだ。やっぱり、あの日のLINEを既読にして良かったのだ。

お酒の力を借りないと言えなかったり、夜のテンションってやつだったり。真夜中の好きな人との内緒話は、普段なら言えない言葉が出てくる時間なのかもしれない。何の意味もない、たった一言の後に続く真意が、私の心をときめかせるし萎えさせる。ちょっぴりスリルな駆け引きが、ひとつ私の恋の指標になった。