今でも忘れられない人がいる。
高校で同じクラスだった彼女のことだ。
私達は本当に良い友人だった。親友といってよかったと思う。
とにかく笑いのツボが合って私はよく彼女を笑わせたし、彼女も私のことを笑わせてくれた。
まるで鏡写しのように私と彼女の思考は似ていて、合わないところがあってもテトリスのようにうまくはまっていた。

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そんな彼女が自分と同じように性別に迷っていて恋愛対象を決めかねていること、それによっていつも希死念慮を抱えていること、家族と不和なことを知った時、私は運命の人だと思った。彼女とはとても良い友人だけど、彼女こそが恋愛的な意味でも私の運命の人だったんだと。

友人としても、いや彼女の存在自体を失うことを考えもせず、その考えに囚われた私は夜星空を見ながら彼女に電話口で告白した。
彼女からの反応は覚えていないけれど、少なくとも私達はただの友人ではなく「恋人」になった。
ここまでの話を読んでくれている人はお察しの通り、私はロマンチストだ。
夢見がちで憧れが強くて、若さゆえに感情のコントロールがきかず、相手が本当は何を考えているのか、感じているのか察する能力も低かった。

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恋人という特権を手に入れた私は自分のしたいことを彼女に押し付けた。手作りのアクセサリーをプレゼントしたり、家族に内緒でホテルに泊まったりは彼女も喜んでくれていたと思うけれど、それだけではなく自分の感情のままに嫉妬心をぶつけたり、他の人と話さないでほしい、もっと一緒にいたいという想いで彼女を縛ろうとした。
相変わらずお互いに沢山笑わせ合っていたけれど、彼女はきっと、いや絶対に恋人という特権を振りかざす私に疲れていたのだろう。

その日は突然で高校3年生の冬、忘れもしない夕暮れの図書室の前で彼女はこの関係をおしまいにしようと言った。
私は考え直して欲しいと言ったけれど、彼女の意思は固く、あんなに何度も何度も共にした帰り道も別々で、そこから会話をすることもなく、とうとう卒業の日まで話すことすらできなかった。
私も意地を張っていたし、これ以上傷つきたくなくて、彼女にもう一度近づくことができなかった。私は私の勝手な思い込みで恋人だけでなく、最高の友人まで失ってしまった。

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彼女が今どこで何をしているのか、消息はわからない。
本当に頑張ればわかるかもしれないけれど、高校生の時に交わした約束を彼女が実行しているなら、生きている彼女には二度と会えないかもしれない。
だから今でも、いや今だからこそ強く思う。

さよならを言いたかった。
ちゃんと、さよならをしておけばよかった。
自分が愛していたのはあなたを愛する自分自身であって、あなたではなかったこと。
それによって振り回してしまったことを謝りたかった。
そして、できれば友人に戻りたいと伝えればよかった。
後悔しても後悔しても遅くて、あれから何度夢に見たかもわからないけれど、10年が経とうとする今、やっと大好きだった彼女のシャンプーの香りを忘れることができたから。
ここで言わせてほしい、本当に本当にさようなら。そして、ごめんなさい大好きでした、と。