これまで何度かマッチングアプリで出会った男性たちについて書いてきたが、そういえば、一番初めに会った人について書いていなかったことに気づいた。

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その人と最初に会ったのは大学一年生の冬だった。私が本格的にマッチングアプリを使い始めたのは、このときが初めて。ちなみに言うと、当時の私はまだ交際経験がなかった。
待ち合わせ場所に立っていた彼を見て、内心焦った。プロフィールの写真よりも、顔が整っていたからだ。本来なら喜ぶべきなのかもしれないが、当時の私は自分の容姿に自信がなく、不安になってしまった。

声をかけ、予約してくれていた居酒屋に向かう。道中、彼が5歳上で、旧帝大の院生であることを聞いた。プロフィールには書いていない情報だった。私は別に頭も良くないので、より焦った。

彼はベラベラ話すタイプではないものの、適度に自分の話をしてくれた。高校時代水泳部だったこと、吉田羊似の同級生に恋をしていたこと、大学浪人中にずっと鳩を眺めていたこと。どうでもいいといえばどうでもいいが、その取り留めのなさが逆に好感が持てた。
一方私はというと、ちょっとはしゃぎすぎてしまったように思う。初めてアプリの人と会う緊張をアルコールで誤魔化そうとしてしまったとも言える。

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彼がサークルの飲み会に参加する予定があるとのことで、一次会で解散した。1人になってから、脳内でめちゃくちゃ反省した。うわーーなんか喋りすぎたかも。ちょっと偉そうなこと言っちゃったかも。など。
案の定、今日はありがとうLINEの後は連絡がなく、この日のことは私の中で黒歴史化していた。

しかし2ヶ月ほど経って春になった頃、彼から再び会いたいと連絡があった。一応、就活が忙しくてしばらく連絡できていなかったことを詫びる言葉を添えて。こちらには断る理由はないので、当然了承した。

その日はお昼ご飯を食べて、カフェに行って、夕方に解散した。
そして、別れ際。立ち去ろうとしたとき、彼は言った。
「好きなんやけど。付き合ってくれん?」

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あ、ちなみにこれはエセ関西弁みたいなやつではない。多分。彼は名古屋出身だったから、そのイントネーションだったように思う。
いや、そんなことはどうでもよくて。

外見や話し方に好感を持っていた相手からこのように言ってもらえるというのは、私にとっては大事件だった。しかし、この日はまだ会って2回目。そして、彼からの連絡は2ヶ月ほど途絶えていたのである。

それらのことを踏まえ、「一旦考えてもいい?」というのがその場で出した私の答えだった。

しかしそう言いつつも、どうも浮かれてしまった。自分が乗る地下鉄の改札に向かう時、ニヤニヤが抑えられなかった。今思うと、それが彼にも伝わってしまったように思う。

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翌日の夕方、「やっぱ昨日言ったこと無しにしてもらっていい?」というLINEが来た。
いや失礼だなオイ。失礼じゃない? 書いてて思い出してしまった。なんで私は告白していないのに振られてるんだよ。

そのあと理由を聞いてみたが、勢いで言ってしまったけど後々思い直した的なことだったらしい。舐めてるな。

もしあの春に戻ったとして、ニヤニヤせずに別れられていたら。もうちょっと余裕を持って「手に入らなさそうな女」を演じられていたら。

今でもたまに思うけれど、仮にそれができていたとして、大した意味はなかっただろうな。メッキはすぐに剥がれる。先延ばしになるだけで、同じ結末にたどり着いたに違いない。
ムカつく思い出だが、恋愛経験ゼロの状態で5歳上の相手に一瞬でも「好きかも」と思わせることが出来たのは、当時の自分にしては上出来だったんじゃないだろうか。