あなたの思う、「よいスタッフ」の基準は何だろうか。
私が思うよいスタッフとは、上からの要望に素直に答え、会社に尽くすこと。
どんなときでも愛想よく振る舞う。これが私の思うよいスタッフ。
これは私が、美容部員として働いていたときの話だ。色々な店舗を経験して成長してほしいという会社からの意向で、郊外の店舗を3つほど経験した。新人だった私は叱咤激励されながらも、少しずつお客様との関わり方や業務を学んでいった。
自分でいうのもなんだが、私は従順でアドバイスを受けたことはすぐに取り入れる素直なスタッフとして上司の間で有名だった。人当たりもよく、新しいスタッフや上司ともなんの問題もなく関わることができる。これまで一度も、職場の人間関係で困ったことはなかった。そんな私だが3店舗目の店長と出会ったことで、初めて人間関係に苦戦することになる。
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彼女は私より10歳上、店長に就任して1週間目。いつでもテキパキと無駄なく動き、小売り業の経験者だけあって、お客様対応や数字の分析も完璧だった。
早く立派なお客様対応を習得したかった私は、尊敬できるコーチを見つけたようで嬉しかった。初めは彼女からの言葉を素直に取り入れていた私だが、日が経つにつれ憧れから不信感に変わっていった。
言葉の節々から感じる、スタッフやお客様を見下す心。
「私は1度もミスをしたことないからあなたのことが理解できない、自分で何とかして」というのが彼女の口癖だ。
彼女に恐怖を感じて辞めていったアルバイトの子も何人かいたが、「私は自分の対応を変える気は一切ない」と彼女ははっきりといっていた。
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彼女も彼女で新しく店長に就任し必死なのだ、と自分にいい聞かせてきた。
しかし彼女の人間性に疑問を感じる度にどんどん、素直な気持ちがなくなっていった。
もう逃げ出すことしか頭になかった私に、マネージャーから朗報が届いた。
今の店舗で副店長になってほしい、そのための修行として1ヶ月間都内の繁忙店を経験して。というものだった。
まさか私が人の上に立つなんて想像できなかったし、彼女の下で副店長なんてやりたくなかったが、何よりこの店舗から少しでも離れられるということが嬉しくてたまらなかった。
そして都内の繁忙店に異動したわけだが、仕事帰りのOLや学生たちで店内が賑わう中、全員が楽しみながら働いていた。ミスが起こったときはコミュニケーションをとりながら全員でカバーする。
仕事=辛いものと頭の中にインプットされていた私にとって衝撃的な体験だった。楽しみながら働いてもいいの?と目から鱗な初日が終わった。
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約束の1ヶ月が終わりに近づいていくにつれて、どんどん憂鬱な気分になっていった。
「元の店舗に戻りたくない」。その思いがついに爆発し、私はマネージャーに本音を話すことを決めた。
「人間として尊敬できない人の下で、働きたくありません」。
YESマンだった私が初めてNOといえた、初めての経験だった。
マネージャーは急な私の毒舌に驚くと同時に、スタッフの数が少ないから、あと2週間だけ元の店舗で働いてほしいと提案してきたが、その後の私はNOの一点張り。
今まで従順だった人間のNOの力は強い。最後はマネージャーが折れざるをえなかった。
何もいわなくてもいつか誰かが気づいてくれる、救ってくれる。なんてうまい話はない。環境は自分で変えるしかないのだ。
「自分の意見をいうことは決して悪ではない、たまには自分ファーストになってもよいんだよ」。今まで数々の場面で自分を犠牲にしてしまってきた私からの、YESマンへのアドバイスだ。
よいスタッフになんてならなくていい。
自分を優先してあげられるのは自分だけなのだから。