三月になると思い出すのは高校の卒業式。でも、私が思い出すのは自分の卒業式ではなく、一つ年上の先輩の卒業式だ。私は自分の卒業式では泣くこともなく淡々としていた。私にとってあまり思い入れのある高校ではなかったし、友人が遠くの大学に行くこともなかったので、寂しく感じることもなかった。

そんな私が先輩の卒業式では大号泣である。わんわん泣く私を見た周りの人たちは「何で自分の卒業式でもないのに泣いてるの…?」と冷ややかな視線を送っていた。
なぜ私はこんなに号泣をしていたのか。それには理由があった。

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私は卒業する先輩と以前、ある約束をしたことがある。「先輩の第二ボタンがほしいから予約したい!」という約束である。
私が第二ボタンをねだる理由はとても単純だ。青春っぽいからである。いつか見た少女漫画に先輩から第二ボタンをもらうシーンがあったのだ。前のエッセイでも紹介したことがあると思うが、学生時代の私は何故か少女漫画に憧れを抱いていた。キラキラした世界に見えていたからなのだろうか…

当時の私には第二ボタン=青春という謎の式が出来上がっていたため、先輩に「ほしいです!」とおねだりをした。しかも一人だけではない。私が高校一年生の時点で、二人の先輩に第二ボタンを予約していた。今となっては、すごい欲張りな後輩である。
「先輩の第二ボタン、予約しますね!絶対ですよ!」という言葉を二人の先輩に伝えた。

なぜ、先輩二人なのか。
私は先輩に恋愛感情を抱いてはいなかった。歳の近いお兄ちゃんのような存在である。先輩のことが大好き!というわけではなかったが、嫌い!というわけでももちろんない。
先輩二人に第二ボタンを予約した理由は「きっと予約したことを忘れるだろう」と私が高をくくっていたからである。第二ボタンがほしい!でも忘れられたら困る!と思い、二人の先輩に頼んだ。そう、私はめちゃくちゃ失礼な人間なのだ…

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お察しの通り、先輩たちは私との約束を忘れてはいなかった。
卒業式後、先輩たちが私に言った第一声は「第二ボタン、予約してたよね?あとであげるね」だった。二人の先輩が同じ場所にいた訳ではない。それぞれの先輩たちに別々に会いに行ったときに言われた言葉だ。
「セリフまで同じなのか…」と驚いてしまったが、約束を覚えてくれていたことがとても嬉しくて泣いてしまった。それも二回も。先輩たちは慌てふためいて「泣かないでー」と私をなだめる。別々に会いに行ったのに、ここまでセリフが同じだなんて奇跡なのだろうか…

でも第二ボタンの渡し方が違った。
一人の先輩はハサミで服から第二ボタンを外して私に手渡してくれた。

一方、もう一人の先輩はハサミを持っていなかったので、力技で第二ボタンを服から引きちぎった。「あれー?おかしいなー...はずれないね?」とニコニコしながら第二ボタンを引きちぎっていた。その場面ではピィピィ泣いていた私も唖然としてしまった。私に第二ボタンを手渡すときもニコニコしていた先輩。力技で引きちぎるなんて私は想像していなかった。

二人の先輩からもらった第二ボタンは今でもストラップにして持ち歩いている。
もう一度、あの春に戻れるなら、先輩にハサミを渡して「第二ボタンを引きちぎらないように」と頼もう。