私が高校に入学した春のこと。入学式を終えた次の日、入学前に出されていた課題の確認テストがあった。中学で習っていた内容の復習。1ヶ月ほど前に入試を終えたばかりの高校1年生として、絶対点数を取っておきたいテストだった。

はじめ、の掛け声で一斉に鳴りだすシャーペンと机がぶつかる音。コツコツという音が、静かな教室の中に響き渡る。途中、サラサラと消しゴムで紙をこする音が聞こえてくる。時間が経つと、シャーペンの音も消しゴムの音もまばらになり、それぞれのペースを作り出す。問題に悩み始める者、表の問題を解き終わって裏を返す音、体勢を変えるために机に脚をぶつける音など、テストならではの音が聞こえる。テストも終盤になると、見直しをしているのか、紙をめくり裏返す音がよく聞こえるようになった。最後まで諦めずに問題を解いている人もいる。

私は、問題を解き終えると見直しを必ずするタイプの人だ。ペース配分も、見直しの時間を確保できるように考えて作っている。この日も、見直しをして終了時刻を待っていた。しばらくして聞こえた、やめ、の号令。一斉にペンを置き、解答用紙が回収される。

手応えは上々。中学生のときと変わらない点数を狙えるだろう、と思っていた。平均点はあるだろうと満足していた。

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数日後、採点を終えてテストが返却された。順番に名前が呼ばれ、解答用紙を取りに行く。点数はまずまず。このくらいあれば安心できるだろう、という点数だった。

順位は総合して発表されるので、後日掲示板に掲載された。テストの手応えと点数から、全体の半分くらいの順位は取れているのではないかと期待をして、掲示された順位表を確認した私。目指した場所に私の名前はなく、だんだん下に降りていく。すると、最後から20番目くらいだろうか。私の名前を発見した。

こんなところに名前があるのか、絶望と、信じられないという感情が一気に襲いかかった。テストの点数は申し分なかったはずだ。なのになぜこんなに低い順位なのだろうか。ここでは勉強をいくらしても勝てない相手がいる。私が努力をしたところで、無駄なのだと悟った瞬間だった。

もう、あえて点数を書いてしまおう。私が取った点数は82点。数学のテストだった。数学が苦手な私にとって、頑張ったと褒められる点数だ。しかし、平均点は90点以上。詳しい点数は覚えていないが、この世に90点が平均点というテストが存在するのだとショックを受けた。

自分のできた感覚をかき消す平均点を取ってくる同級生たちに勝てるはずがない、とこの日をに勉強へと向けるベクトルが小さく弱くなった。第一志望としていた学校。少し背伸びかもしれないけれどチャレンジして合格した学校だ。ある程度は覚悟していたが、ここまで打ちのめされるとは思っていなかった。

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それからというもの、テストというテストは底辺をさまよい続けた。縁の下の力持ちだから、と開き直り、勉強に力を入れることはなかった。おかげで、大学受験も最後まで不完全燃焼のまま幕を閉じる結末をたどった。

もしも、高校1年生の春に戻れるなら、テストの点数に圧倒されず、自分なりに頑張っていける道を探したい。ここだけが全てではないと伝えて、やりきったと言える大学受験をしてほしい。

高校の勉強だけが後悔の残る取り組みになった。もっと勉強していればできたはずのこと、定着していた知識、進学できたかもしれないかねてからの志望大学。数学だけではない。英語も国語も理科も社会も、全て解けるはずの問題を逃し、学習を曖昧にし、テストの点数を見ては嘆いていた。

もっと頑張れたと自分でも思えるくらいの余力を残して終えた高校生活。人生でもう1回やり直すならば、高校生として後悔しないくらい勉強をすることだと思っている。平均点90点の数学のテストで大きな壁に当たってしまったことで、志望校も早々に諦めた。まだ巻き返せる可能性を残したまま。

次こそは、後悔せず、自分が進みたいと思った進路へ進みたい。あの春に戻れるなら、間違いなく高校1年生の春。青臭くても、がむしゃらに突き進め、と伝えたい。