27歳の誕生日、ChatGPTをインストールした。
書き込んだのは「母に『誕生日なのに誰にも祝ってもらえないの?寂しいね〜笑』と言われました。悲しいです」。

その日は日曜日。本当は予定があった。彼氏が誕生日を祝ってくれるはずだった。でも当日の朝に電話があって、体調が悪いとのこと。後からコロナだとわかった。当日にして誕生日の予定がなくなってしまったのだ。
それに、誕生日は毎年友人たちが誰かしらおめでとうLINEを入れてくれるのに、今年は一切無かった。ひとりも。虚無。
唯一連絡があったのは母だった。昼前頃、電話があった。電話の本題はもう憶えていない。冒頭に「誕生日おめでとう」と言われて、それに次いで「誕生日なのに何も予定ないの?」と聞かれた。本当はあったんだけど、なんて説明が面倒くさくて「ない」と答えたら、母が渾身のストレートを放ってきた。
「誕生日なのに誰にも祝ってもらえないの?寂しいね〜w」
あの笑いは(笑)では無かった。紛れもなく「w」だった。

◎          ◎ 

27歳になって、こんなことで傷ついて恥ずかしい限りなのだが、私は非常にショックを受けた。予定もない。友人からのお祝いもない。時間はあるけど何をしていいかわからない私は、ただひたすら母に言われたことを反芻し続ける。誕生日をあんなに鬱々と過ごしたのは初めてかもしれない。まだ仕事がある平日の方が充実していた気がする。何もすることがなくひたすら落ち込んでいると、今度はそれ以外のいろんな悩みまでぐるぐるし始めて溺れそうだった。この気持ちをなんとかしなければならない。そんな時、ChatGPTを思い出した。

当時、生成AIが流行り出したタイミングで、有名なゲーム実況者がChatGPTにふざけた質問を投げて遊んでいるのを見た。それに、有名な精神科医YouTuberが「カウンセリングとしても使える」と紹介している動画も見ていた。今こそ相談する時ではないか。すがる思いで私もインストールした。

◎          ◎ 

一番最初にした質問は、「今日、誕生日なのですが、何も予定がありません。有意義に過ごす方法を教えてください」だった。ChatGPTからは、「お誕生日おめでとうございます!予定がなくても、有意義な時間を過ごす方法はたくさんありますよ。以下にいくつかのアイディアをご提案いたします」と、1.自分へのご褒美としてお気に入りのレストランやカフェに行く 2.ピクニックをする 3.趣味に没頭する ……など10個提案してくれた。

でも正直、その日はもうその提案された何かをする気にはなれなかった。
それよりも自分が困っていること、疑問に思っていることをひたすら投げかけ続ける。
「誰かになりたい、すごい人になりたいと言う気持ちは、どうしたら解消できますか?」「休日に予定がなく一人で家にいると気持ちが落ち込んでしまいます。解消する方法はありますか?」「やりたいことはいっぱいあるのについ後回しにしてしまいます。どのように解決すれば良いでしょうか」「お金の管理が下手で、毎回家計が赤字になってしまいます。改善する方法はありますか?」など、普段人に言えないような悩みをひたすら書き込んだ。ChatGPTは懇切丁寧に回答し続ける。気づいたら日付を超えていて、誕生日は終わっていた。

◎          ◎ 

一通り自分の悩みを吐き出した後、私は一番もやもやしていたことをぶつけた。
「昨日、27歳になりました。お祝いして欲しいです」
「お誕生日おめでとうございます!27歳の節目を迎えられたこと、心からお祝い申し上げます!人生の新たなステージが始まる27歳の年に、素晴らしい瞬間や幸せがいっぱい訪れることを願っています。これからも素晴らしい経験と成長がありますように!お誕生日を大切な人と楽しく過ごし、素敵な思い出を作ってくださいね。どうぞ素晴らしい一年になりますように!」
誰とも過ごせてないし、素敵な思い出なんて作れなかったけれどねと思った。追い討ちをかけるようにさらに書き込む。
「母に『誕生日なのに誰にも祝ってもらえないの?寂しいね〜笑』と言われました。悲しいです」
「お気持ちお察しいたします。母からそう言われると、とても辛く寂しい気持ちになることでしょう。誕生日は特別な日であり、大切な人たちに祝ってもらいたいと思うのは自然なことです。しかし、人々の忙しさや日常の中でうっかり忘れることもあるかもしれません。それでも、周りの人々があなたの誕生日を気づかっていないからといって、あなた自身の価値が低いわけではありません」

◎          ◎ 

その日、もやもやしていたことがふっと軽くなった気がした。私自身の価値が低いわけではないと言ってくれて安心していた。
お気持ちお察しいたしますなんて、お前いつ心を持ったんだって感じだけど。
そういえば、フルリモート勤務になって、人と話す機会が減った。どれくらい減ったかというと、はっきりと滑舌が悪くなった事を自覚するくらい口を動かさなくなった。そうしているうちに「話したくても話せないこと」が増えてしまったのかもしれない。自分の悩みを無理やり飲み込んでしまっていたのかもしれない。

AIが仕事を奪うなんて話もあるけれど、私はその時、AIに救われることだってどんどん増えていくだろうなと思った。こんな馬鹿みたいな相談で救われるなんて大袈裟かもしれないけれど、でも、馬鹿みたいなんて思えない時だってある。話したくても話せないことだってある。そんな時にAIが一助になる可能性があると思った。
そんな気づきを得て、27歳が始まった。