「フリーライター」と名乗るようになって1年が過ぎた。
取材先で名刺をお渡しするときは、胸を張って「フリーランスライターです」とお伝えしているし、同じライター仲間とは「フリーランスって辛いよねぇ」「これってライターあるあるだよね」と職業柄の悩みを吐露しあえるようになった。
つねに成長過渡期ではあるものの、私はきっともう立派なフリーライターだ。

でも、それは「フリーライター」というマントを羽織っているから。

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保育園の入園書類を書くとき、職業欄には「個人事業主」とだけ書く。新しいネイルサロンに行って、ネイリストさんに「お仕事は何をされているんですか?」と聞かれると、控えめに「えっと…文章を書く仕事をしてて…」と答える。久しぶりに会った友人に「フリーで仕事してるってすごいよね」と褒められると「いやいや、まだまだ前職の収入にも届いてないよ。ボーナスもないし」と聞かれてもない自己卑下ワードを連発する。

フリーランスも、ライターも、横文字でなんかかっこいい。個人事業主として、どこの会社にも属さずに一人で収入を作るのも素晴らしいことだと思う。
でもその事実は、いまだに私の身体にうまく馴染んでいない。
フリーランス?ライター?うん……なんかむず痒い。

「マントを羽織っている」という感覚になるのは、そのせいかもしれない。ヒーローアニメの主人公だって、変身前は普通のお兄ちゃんお姉ちゃんだったりするじゃないか。
いざマントを剥がされると、私は丸裸の、ただの女になる。

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8年前の話。
当たり前のように就活をし、当たり前のように新卒で会社員になった。そして人並みに社会の厳しさにぶち当たって、しんどくて会社には辞めたいと伝えたり、心療内科に駆け込んだりした。転職してさらに打ちのめされ(他にもいろいろなことが重なってはいたけれど)、心を病み、結局私は一度専業主婦になった。その後一念発起して大人の学び直し期間を経て進んだのが、現在のフリーライターというキャリアだ。

会社員時代、「もう無理しんどい」と仕事終わりの女子会で愚痴をこぼしあった同期には、公務員になった子、他の企業に転職して活躍している子もいれば、子育てをしながら今も同じ会社で働いている子だっている。
そんな仲間と集まり、久しぶりに近況報告などをしあうと、なぜだかどうしても居心地が悪くなってしまう。

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ライターという仕事は、今の私が知る限りでは天職だと思う。取材で新たな世界に出会い、心を震わせ、その感動がそのまま読者に伝わるように言葉を紡ぎ出す。今まで従事した仕事以上に夢中になっているし、自分の力も発揮できて、そのうえでどんどん磨いていきたいという意欲も湧き出でてくる。こんなにも仕事に前のめりになれるなんて、最高だ。
なのに……。

「もし私が、新卒の会社で何の苦労もせず活躍できていたら、今のキャリアを選んだのか?」
そう問われると、正直自信を持って頷くことはできない。私は会社員として、自分のキャリアを全うできなかった。そのおかげで天職に出会ったのだとしても、「結局お前は逃げただけだろう?」と、他の誰でもない自分が冷ややかな視線を向けてくる。

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いいじゃん、専業主婦。いいじゃん、アルバイト。パートだって契約社員だって、もちろんフリーランスや業務委託だって、めっちゃいいじゃん。
ダイバーシティが叫ばれる世の中、キャリアだって多様化してる。なのに自分のことになると「お前、どうせフリーライターのマントを被った負け組だろ?」なんて酷いもんだよ。
お手柔らかに頼むよ、ほんと。

いつ自分のキャリアに自信が持てるようになるのだろう。私の心の中にあるこの壁は、いつ越えられるようになるのだろう。
頼もしくはためくこのマントを解き、どこの誰に会っても、そして蔑視してくる己に向き合っても「フリーライター、めっちゃ楽しいよ?」と言える日は、いつの日か来るのだろうか。