2020年の春、私は大学を卒業しシステムエンジニアとして働き始めた。

希望していた、商品の製造部門に配属され、毎日やりがいを感じていた。
自分が関わったシステムが現場で実際に使われている様子を初めて見た時は、自分の仕事が社会の役に立っている…と心底感動したことを覚えている。

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3年目になった頃にはプロジェクトリーダーという責任ある立場も任されるようになり、私の社会人生活は順調に進んでいた。
はずだったが、4年目に差しかかった頃、業務の重責や残業の多さに耐えられず、心身共にどんどん辛くなってしまった。
眠れない、食べられない、涙が止まらない。
前に進みたいのに今自分が向いている方向が分からず、真っ暗なトンネルの中にいるような感覚。
このままでは自分が壊れてしまうと思い、人生で初めて心療内科を受診した。
「少しお休みした方が良さそうですよ」
そう医師に言われ、私は翌日から休職することになった。診断名は適応障害だった。

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休職1ヶ月目は何も考えられなかった。
今まで好きだった読書や動画鑑賞も楽しめず、ただ眠ったり、目的もなく近所の散歩をしたりする日々。
こんなボロボロになるまで働いて、私は一体何を成し遂げたかったのだろう。
そんなことを思いながら漫然とした生活を送っていたある日、たまたま整理をしていた書類の山の中から、1枚の紙を見つけた。
それは入社してすぐの研修期間中に作ったもので、当時の私の社会人としての目標がサインペンで綴られた紙だった。

変化する社会に対応して、人々が充実して働けるサポートをしたい。
全ての人が暮らしやすい世の中を実現したい。

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目の前の仕事に追われ、自分が掲げていた目標をすっかり忘れていた。
3年半前の自分の文字を眺めながら、今の自分の状態があまりにも情けなく、涙が止まらなかった。理想からかけ離れてしまった私はこれからどうしたら良いのだろう。
無理矢理復職する?それとも心機一転転職する?
復職したとしても今までと同じような働き方はもうできないことは分かっている。けれど、転職する勇気もない。希望していた仕事をやらせてもらい、コツコツと築いてきた信頼関係や知識もある。簡単に手放したくない。

今後の働き方について、毎日、何度も何度も、繰り返し悩み考えた末、自分の中で一つの結論が出た。

今までの仕事に執着する必要はない。
何を成し遂げるにしても、まずは自分の体調が最優先。
自分にできることで自分を食わせていければ、とりあえず良し。

何か特別なきっかけがあってこの結論に辿り着いたわけではない。
休職してから時間が経つにつれてぐちゃぐちゃに絡まった思考が少しずつほどけていき、自然とそう思えるようになっていった。
最優先事項が自分の中で明確になると、驚くほど息がしやすくなった。

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「部署異動させてください」
休職して2ヶ月が経とうとしていた頃、上司に電話でそう伝えた。
転職も検討したが、体調を整える為に自分にとって1番負担が少ない手段は、同じ会社内で残業が少ない部署に異動することだと思った。

異動希望は案外すんなりと通り、今年の初めに私は同じ会社の別部署で復職を果たした。
商品の製造部門から会社の管理部門への異動となり、業務内容はがらりと変わった。
異動先は有難いことに良い人ばかりだった。
業務は初めて携わるものがほとんどでほぼ0からのスタートだったが、周りの人に助けられながら何とか前に進み始めている。

信頼も知識もまた新たに積み上げていこうと思う。
休職を経験した今も私の目標は入社当時から変わっていない。ただその目標を叶える道は1本だけではないのだと思えるようになった。