私はお世辞にも家事が好きとは言えないし、得意でもない。
部屋に人を招くことにも躊躇してしまうし、ここ10年ぐらい友達が部屋に来たことすらないかもしれない。
そんな私が唯一好きな家事がある。
それは、コンロの掃除だ。
ついつい忘れがちになるそれ。
だからこそ、我が家で暇を持て余した私が気分転換も兼ねて担当している。

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ちょこんとったごとく、そしていつの料理かわからない焦げ跡で黒くなった板。
ある日の私はやかんで湯を沸かしながらその汚さに驚く。
「あ、きれいにしなきゃ」
それは衝動的にやってくる。
沸かした湯で2リットルのお茶を作った後、やかんを別のごとくの上にせる。
やや熱いのを覚悟しながら、濡らしたキッチンペーパーで茶色い板の汚れを拭う。
そっと水分を板にせただけで、水滴はたちまち色をつける。
それを見て安心した私はまた新しいキッチンペーパーでからぶき。
買いたて……とはいかないまでも、新品同然の表面が顔を出す。
良い感じに冷えてきたやかんは一緒に焦げを取るので一時シンクへ避難。
三つ口のコンロだから残りは二つ。
同じ要領で次々と磨いていく。
しつこい汚れは洗剤を含ませて汚れを浮かす。
水ぶきをして、からぶきすればあら不思議。きれいなコンロの出来上がり。

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やかんもついでに磨く。
母曰く10年物のやかんは実はシンクより手ごわい。
側面についたあぶらよごれの焼け跡らしきものをメラミンスポンジやら色々な手を使って落としていく。
鉄本来の輝きが少し見えてきたところで、私の普段家事を避けてきた手が悲鳴を上げ始める。
「こりゃあ、明日は筋肉痛だぞ」と思いながら、なるべく負担をかけないように最大限の成果を上げようと画策する。
磨くのに満足した後は軽くふいてまた定位置であるごとくの上に戻す。
毎日キッチンに立つ母なら気づいてくれるかなとニマニマしながら後にする。

一人暮らしの経験もあり、一通りの家事は経験してきた。
けれど、好き好んでしている自覚がある家事はコンロ掃除だけなのである。
小学校の頃から大掃除に張り切る方だった。
窓を磨いたり、普段の汚れをためたところを一思いに綺麗にできてしまう。

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コンロをついつい磨きたくなるのは、中でも一番私が目に触れるから。
窓を開けない日はあっても、キッチンには毎日足を運ぶ。

中でもコンロはキッチンの入り口にあり、真っ先に目に入る。
毎日外に出ればそれは窓に代わるのかもしれないが、少なくとも食欲に支配されている現在の私にとって一番きれいにしたいもの、それがコンロなのだ。
コンロを磨いている間はコンロのことだけ考える。
本当は人間関係で苦しくても、卒論が手詰まりでも、その時だけはコンロ、コンロなのである。
コンロが綺麗になると、私の悩みも片付いてシンプルになった気がする。
たかがコンロ、されどコンロ。
コンロ掃除は私にとってかけがえのない時間だ。