優柔不断で節約家の私だが、大学生の時に一度だけ衝動買いをしたことがある。
緑色の大きなカエルのぬいぐるみが縫い付けられたトートバッグだ。このトートバッグのことを愛情も込めて、カエルちゃんと呼ぼう。

◎          ◎ 

カエルちゃんは私から見るとめちゃくちゃ可愛く見えるのだが、他の人から見ると少し気持ち悪く(?)見えてしまうらしい。まあ私は世間でいういわゆるキモカワなものが好きなので仕方がない。そんなことは置いといて、ぬいぐるみ好きでもある私はそのカエルちゃんの可愛さに一目惚れした。

「これ買います!!!」

気がついたらカエルちゃんと一緒に家に帰っていた。

「ねえこれ買ったの!!」

当時付き合っていた彼氏に自慢げにカエルちゃんバッグの写真を送った。彼氏もぬいぐるみが好きだし、このカエルちゃんの可愛さをわかってくれるだろう。デートに一緒に連れて行きたいなぁ、反応が楽しみだなぁ〜!

「え、まじで…?」

返ってきた返信は予想外。普段優しい彼が信じられないくらいドン引きしている。
もちろんデートには…

「連れてこないでね!!」

そんな…カエルちゃんの表情もどこか悲しげに見えた。

◎          ◎ 

残念ながらデートには連れて行けなかったものの、友達(ぬいぐるみつきのバッグを急に持ってきても驚かない子限定)と遊ぶ時やバイト先(ぬいぐるみに理解がありそうな人が出勤している時に限り)には連れて行った。

「可愛い〜!!!!」
「やばすぎw」
「マジで買ったの!?」

連れ出された先でいろんな人に愛でられた(?)カエルちゃん。これからもいろんなところに連れてくぞ〜!!そんな気持ちでいっぱいだったが、カエルちゃんと私の関係にヒビが入る

タイミングがやってくる。
私の就職だ。

「社会人がこんなバッグ持ってたらやばいよね…」
「なんでこんなバッグ買っちゃったんだろう…」

あんなに一目惚れだったのにカエルちゃんを買ったことを恥じてしまう自分も出てきた。
もう大人なんだし、キモカワ好きとかぬいぐるみ好きなのはそろそろやめないとな…
こうして、あんなに連れ出されていたカエルちゃんは約2年間クローゼットの中に閉じ込められることとなってしまった。

しかし、そんなカエルちゃんとの関係をやり直すチャンスがやってくる。

「ねえ、あのカエルのカバン見たいんだけど!!」

久しぶりに会う約束をしていた友人からカエルちゃんのご指名をいただいたのだ。

「あのカエル=和枝って感じなんだよね!」

そんなに言われたら持っていくしかない。

◎          ◎ 

久しぶりに外へ出たカエルちゃん。
友人もカエルちゃんとの久しぶりの再会を喜んでいた。そして友人がポツリとつぶやいた。

「いくつになってもこういうの好きな和枝のままでいてほしいなぁ」

あ、いいんだ。このままでも。

社会人になったからと言って、自分の気持ちに蓋をしていた。
本当はカエルちゃんのことが好きだ。キモカワもぬいぐるみも大好きだ。でももう大人なんだからこんな趣味を卒業しなきゃ。そんな風に無理矢理思っていたが、彼女の言葉を聞いて、卒業しなくてもいいんだなと気持ちが軽くなった。

でも流石に頻繁にカエルちゃんとお出かけするのは恥ずかしい(笑)

あと数年はたま〜にカエルちゃんとお出かけして、そのあとはカエルちゃんはお家の小物入れとして使おうかなと思う。

一瞬買ったことを恥ずかしくなってしまったこともあったが、今はそんな気持ちは全くない。あの時衝動買いした自分を褒め称えたい。私の好きが詰まったカエルちゃんを一生大切にしていきたいと思う。

余談だがカエルちゃんにドン引きした彼氏と大学卒業寸前に別れたが、昨年復縁した。
相変わらずカエルちゃんをデートに連れていく許しは出ていない。いつか許しが出ますように。