この春、いとこが東大に合格した。
彼は1年浪人していて、去年も1点差で落ちたとのことだったから、実力からすれば順当なのだろう。

中高と私立の進学校に通っていたし、私のおじである彼の父親も京大卒だし。決して奇跡とかではなく、資質がある人間が努力もしたことで得た結果なのだ。十分に納得できる。しかし「彼は私のいとこなのだ」と考えると、首を傾げたくなる。

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私はフッワフワした地方国公立大卒だ。

同級生には活躍している人もいるし、ここに行きたくても行けなかった人もいるんだろうから、安易に自虐として持ち出すのは間違っている。そう分かってはいるが、東大とまで言われちゃうと、持ち出したくなってしまう。
フッワフワってどういう意味よ、と思われた方もいるかもしれないが、そりゃもう、フッワフワしてた。

特に私が通っていた美術専攻のフワフワ感はすごかった。入試はデッサンなどの実技試験もあるから筆記はセンター試験3科目だけでよかったんだけど、それで3割しか取れてない人でも入れていた。そういう人は実技で点数を取ってるから入れるわけだけど、それにしても、国公立でそんなのアリかよって思う。
とか言いつつ、私もそれに救われたクチだ。確か5割ちょっとしか取れていなかった。

なんでそんな私のいとこが、東大に!?
四谷学院のキャッチコピーを、極限まで情けなくしたような気持ちがよぎる。

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ちなみにいとこは本州で育っていて、サピックスに通っていた。私が育った北海道にサピックスはないので正直あまり分からないのだが、頭が良くないと通わせてもらえない塾なのだということは知っている。彼には双子の妹がいて、その2人も通っていた。

3人でサピックスのパンフレットに載ったこともあるのだというから、驚きだ。頭が良くないと通えない塾に兄妹3人とも通えて、さらに「集客するにはこの子たちが適任だろう」と選ばれたということなのだから。あまりにも私と生きる世界が違いすぎる。

彼らの父は母方のおじなのだけれど、その姉である私の母も頭が良い。
母の実家はとんでもなく貧乏で、長女だったため大学進学は出来なかったらしいけど、札幌で5番目くらいにレベルの高い高校に通っていた。そのなかでも学年で10番目の成績だった。
私の父も勉強は出来る。私の出身高よりは全然高い偏差値のところを卒業している。

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えっ、じゃあなんで?
なんで私は、その遺伝を選びとって生まれて来られなかったんだろう。

こういうことを考えるとき、暗い道を赤ちゃん未満の私が進んでいく光景をイメージする。そこには、父と母の持つ要素がズラリと並んでいる。父の優れた運動神経。あぁ、これは取っていかないんだ。母のパッチリした目は……あ、それも取らないの?

父のはほっそい一重瞼だけど、あ、そっち選んじゃうのね。でも頭脳に関しては大丈夫。父母とも良いんだからどっちを選んでも、ってアレ? なんで? どっちも持っていかないの? どういうこと?

そんなわけで生まれてきたのが私だ。

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「あなたに似たら運動神経抜群」
「君に似たら頭脳明晰だね」

そう言い合ったご両親から生まれたのび太くんは運動も勉強もできない少年だったわけだが、それと似たような話である。今っぽく言えば「子ガチャハズレ」ってとこだろうか。

もっと良い要素を選んでいたら。ついそう思うが、冷静に考えるとこれはそもそも生まれてくる前のことなのだ。過ぎたことを言っても仕方ない、の究極形。せめて生まれた後のことを悔やむべきだ。

でもさ〜〜選びたかったよ、優れた頭脳。運動神経も、外見も。両親の持つ要素から優れた部分だけを選べていたら、結構素敵な人物になっていたと思う。父母にない要素なら諦めもつくが、あったのに。生まれる前の自分の愚かさを恨まざるをえない。