私はもうすぐ21歳になるが、恋愛経験はほぼゼロ。
しかし、そんな私にも、あれは恋だったのか…?という微妙に甘酸っぱい思い出がある。

◎          ◎ 

中学生のころ、斜め後ろの席の男子によく消しカスを投げられていた。これだけ聞くと私がいじめられていたみたいだし、実際に私も当時はそう思っていた。

次の席替えで、なんとその彼と隣になってしまった。初めは「また消しカスを投げられるんじゃないかな…」と憂鬱で仕方なかったが、徐々に話していくうちに彼へのイメージが変わっていった。

確かに、リュックから出すのが面倒という理由でシャーペンを貸してと言ってきたり、何が入ってるの、と勝手に私の筆箱をあさり始めたりするなど、怖いと思うことは続いた。しかし、それ以上に波長が合い、私の話をちゃんと聞いてくれて、優しい一面があることに気づいた。

そしてもう一つ、後から気づいたことがあった。彼は意外とモテていた。中学の時のモテる要素として定番の、「足が速い人」だったのだ。彼はサッカー部に所属していて、部の中でも1位2位を競うほどの俊足の持ち主だった。

優しいのも私にだけではなく他の女子にも割と優しいので、各クラスに一人は彼のことが好きな女子のうわさも聞いたし、委員会で彼とペアになった女子のほとんどを好きにさせたという甚だしい実績を持っていた。

◎          ◎ 

とはいえ、どんどん仲良くはなっていったものの、「モテ男の隣」という特等席を勝ち取っても私は恋に落ちなかった。もしくは世間一般でいうと"好きになっている"状態だったのかもしれないが、恋愛をしたことがない私にはわからなかった。
しかし、後から聞いたが、私と彼のやり取りはどんどん親密になっていて、はたから見たら「え、付き合ってるよね?!」と思うような雰囲気を出していたらしい。

そんな中、私は携帯デビューをした。朝、前の席の女子とウキウキしながら話していると彼が登校してきて「ID交換しよ」と言ってきて、早速その日の夜からメッセージのやり取りが始まった。たわいもない会話が数日、ずっと続いていた。学校でもずっと話していたくせに、メッセージの会話が途切れることはなかった。

ある日の夜、いつも通り寝る直前にメッセージのやり取りをしていると、
「今好きな人いるの?」と唐突に言われた。
不思議に思いながらも「いないよー」「逆にいるの?」と聞くと、
「ひみつ」と3文字だけ返信が来た。

仲良い私になぜ教えてくれないのかと「教えてよ!」「誰にも言わないから!」と送っても、彼は変なスタンプではぐらかしてばかりだった。
それ以降その話題をすることはなく、しばらくして席替えをしてあまり話さなくなってしまった。

◎          ◎ 

約1年後、彼が一緒にやっていた体育委員の女子と付き合ったという噂が私の耳に入ってきた。「流石だな」とただただ驚いていたと同時に、なぜか少し、ほんの少し、心に霧がかかったような気持ちになった。

なぜなら当時、私は丁度彼とメッセージのやり取りをしていたからだ。噂を確かめようと帰宅後すぐに「ねえ彼女出来たんだって?!」と送信すると、「あーもう噂回ってるんだ」「付き合ってるよ」と返ってきた。

なんで私に言ってくれなかったの〜、、と何度も送信しようとしたが過ぎたことは仕方ない上、これ以上は彼女に申し訳ないと感じ、可愛い動物のスタンプで会話を終わらせた。

当時の彼女とは中学卒業と同時に彼から振ったと聞いたが、私と彼は別の高校に進学し、疎遠になった。あの時、彼が"ひみつ"の内容を教えてくれていたら、私が「好きな人いるよ」「好きだよ」と返信していたら、その後どうなっていたのだろうか。6年たった今でもふと考える瞬間がある。

もしこれを「恋」とカウントするならば、私はこの「恋」のおかげで今もずっと新しい恋に踏み出すことができていないのかもしれない。