朝ごはんを摂らなくなって、もうずいぶん久しい。おそらく20歳前後の頃から1日2食生活が当たり前になっていった。

当初は忙しない朝の時間を有効活用するためのショートカットだったが、徐々に「朝ごはん、別に食べなくても大丈夫かもしれない」と思うことが増え、今に至る。 

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夫も同じく1日2食派なのだが、少し前から「出社途中にお腹が空いちゃうから、お茶碗半分くらいの量のちっちゃいおにぎりがあったら嬉しい」というリクエストを受けるようになった。

お米はあらかじめまとめて炊いて小分け冷凍しているため、朝はそれを2個解凍して、1個は夫のお弁当用、1/2個はおにぎり用、そして余った1/2個は私がふりかけをかけて食べるという流れが出来上がった。

このふりかけごはんが、言わば最近の私の朝ごはんということになるのかもしれないが、朝ごはんと呼ぶには何だか心許ない量だ。

お茶碗にこんもりよそられたほかほかの白ごはん。

具材たっぷりの温かい味噌汁。

素朴な味わいがやさしく染み渡る焼き魚。

さっぱり風味が箸休めにちょうどいいお漬物。

そんな理想的な朝ごはんを食べていたのは、遥か昔の話。

でも、いわゆる一汁三菜がばっちり揃った食卓の風景より、忘れられない思い出として心に残っている朝ごはんがある。

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それは、家族旅行の日の朝ごはんだ。

子どもの頃、私の家では必ず年に1回旅行に行っていた。ただ、ここで言う朝ごはんとは旅先で食べたものを指しているわけではない。
 

出発はいつも早朝だったため、家族全員朝ごはんは食べずに家を出ていた。

高速道路に乗る前、インターチェンジ付近のコンビニで朝ごはんを買うのが我が家の旅行ルーティーン。

ずっと楽しみにしていた旅行に対する胸の高鳴りも相まって、非日常感あふれる車中の朝ごはんは当時の私にとって格別のものだった。

私がコンビニで選ぶのは大抵同じもので、おにぎりとアロエヨーグルト。

いつでも買える商品なのかもしれないけれど、私にとって「おにぎり×アロエヨーグルト」の組み合わせは旅行のはじまりを告げる象徴と言ってもよかった。特にアロエヨーグルトは、今でもヨーグルト売り場の陳列棚を見ると妙に反応してしまう。自然と懐かしさが込み上げてくる。

今も時折アロエヨーグルトを買うことはあるけれど、やっぱり、旅先に向かう朝の車中で食べたときに感じたあの美味しさには敵わないなと思う。同じ商品のはずなのに、感覚はまるで別物だ。

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子どもの頃は、毎日食卓で朝ごはんを食べるのが当たり前だった。だからこそ、年に一度だけ、車中で食べるコンビニ朝ごはんの記憶は何年経ってもこうして色濃く残っているのかもしれない。

すでに母が亡くなっている今、両親・妹・私の家族4人でもう一度あの雰囲気を味わうことはできないけれど、先日私と夫は車を買った。ふたり家族にとっての、新たな相棒だ。「これで荷物のことは気にしないで、旅行に行きやすくなるね」とよく話している。

今の私たちに朝食の習慣はないものの、旅行のために朝早くに家を出たとしたら、早々にお腹が空いてくることもあるだろう。その土地ならではの美味しいグルメに舌鼓を打つのもいいけれど、子どもの頃のように、車中でコンビニごはんを食べるのもきっとわくわくするものなのではないかと思う。古い記憶が、とびきり楽しかった感情ごと鮮明に思い出せるのだから。

そして私はおそらく、大人になった今も懲りずにおにぎりとアロエヨーグルトを買うのだろう。おにぎりの具は、そのときの気分次第で。