2015年の4月。これから始まる4年間に期待を膨らませることもなく、なんとなくここにいるという感覚の中で大学の入学式に参加したあの日。

高校でもこれといった夢はなかったけれど、とりあえず選択肢は多い方が良いのではないかという理由で進学クラスを選択した。その結果、週末は勉強会か模試、周りは常に参考書と向かい合っている人たちばかりという環境に3年間身を置くことになった。高校3年間で一言、二言しか会話をしていない人なんてざらだし、クラスみんなで盛り上がるといったことも本当に少なかったように思う。唯一心を許して笑うことができていたのは、部活で会う友達と過ごす時間だけだった。

でも大学では部活やサークルに入るつもりもなかったので、きっと高校のときより楽しいことは少なくなるだろうと当然のことのように思っていたし、当時の私は大学に入らせてくれた家族への感謝と、こんな気持ちで入学しようとしていることへの申し訳なさが入り混じった複雑な感情の中にいた。

◎          ◎ 

そんな感情の中でも入学式は着々と進んでいき、教授たちは挨拶の中で「素晴らしい4年間を過ごしてください」といったメッセージを送ってくれていたような気がするが、最後まで自分のことだとは捉えられずにその日の一大イベントは終了した。

閉式後、どこからか聞こえる安堵が入り混じった雑談の声で、ここにいる人たちはみんな、私と同じ今日入学する大学一年生なんだという実感が湧いてきた。大勢いる同期の中で自分がひとりぼっちなことに急に不安を感じ始めたところで、退場のアナウンスが聞こえてきた。

出口を確認しようと後ろを振り返ったあと、姿勢を元に戻そうとしたそのとき、恐らく同じタイミングで後ろを向いていたであろう隣の席の女の子と思わず目が合ってしまった。急な出来事にお互い照れながら軽い会釈を交わし、そして気がついたときにはその恥ずかしさを紛らわすかのように「緊張しますね...」と遠慮がちな一言が、お互いの口から溢れていた。その瞬間、さっきまで強張っていた私たちの表情が「あなたも仲間だったんですね...!」と言わんばかりの安心感でほころんでいくのがわかった。同じ不安を抱えた味方がこんなに近くにいたのか、と二人で一緒に胸を撫で下ろし、朝からずっと体に馴染んでいなかったおろしたてのスーツが少しだけゆるんだような気がした。

そして直感的に、今この子と友達になれたら、私にも「素晴らしい4年間」が訪れるかもしれないと思えた。そこから先はどちらからともなく会話を再開し、自己紹介をして連絡先を交換した。

◎          ◎ 

そして始まった大学生活は私の直感通りだった。その子と同じ授業を受け、バイトがない日はDVDを観ながらお泊まり会をしたり、とても楽しく充実した日々を過ごすことができた。きちんとした目標があり、そのために文武両道で何事も積極的に取り組む彼女はいつでもキラキラしていて、常に周りを明るい雰囲気にしてくれていた。そんな彼女のおかげで私は4年間遊びと勉強どちらにも前向きに取り組むことができた。遊び呆けて勉強が疎かになりそうなときも、実家を離れて夢のために頑張る彼女をみて、自分の姿勢を正したことが何度もあった。

そんな彼女は、入学当初から抱いていた地元で警察官になるという夢を叶えた。4年間の努力を間近で見ていた私は、自分のことのように嬉しかった。警察学校に通っている間は連絡が頻繁に取れないため、タイミングを逃した結果、大学を卒業してからこれまで一度も会えずにいる。彼女はいま、元気に過ごしているだろうか。

◎          ◎ 

あの日入学式で思わず発した一言を今でも覚えているのは、彼女がとても素敵な子で、友達になれてよかったと心から思えている証拠でもある。思い返せば何百人といる人たちの中で、隣に座れたこと自体ものすごい確率だ。もしかしたら運命を司る神様がいて、「この子と友達になったら楽しいよ!」とそっと背中を押してくれたのかもしれない。そう思えるくらいに理屈だけでは説明できないこの出会いを、私はいつまでも大事にしたい。自分から連絡するのはいくつになっても緊張するけれど、今度勇気を出して、彼女に連絡してみようかな。あの時交換したLINEを開きながら、私は今すぐにでも会いに行きたいという衝動に駆られている。