2024年2月29日、私はとある地方都市の道を歩きながら考え事をしていた。
引っ越すかどうか、不動産屋さんに伝える期日だったからだ。

派遣のリゾートホテルフロントスタッフとして働いていた私は、通勤アクセスが悪く(何せ業務後、外階段を20段くらいらないといけない)、自分のデスクすらない立ち仕事の中で、あと3年で30歳になるのに、いつまでも体力勝負をしていては、この先のキャリアも貯金も蓄積されないと焦りはじめ、就職活動を始めた。

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その結果、2つの会社から内定をいただいた。一方の会社は地元の文化施設で、契約社員としての採用だった。希望した企画職ではなく、一般事務だった。まあ、アート系の大学を出ていないから当たり前でもある…
私は以前、短い期間ではあるが、文化施設で企画の仕事をしたことがあった。その影響ですっかりアート鑑賞にはまってしまい、いろんな劇場に通いだした。リゾートホテルで働いている間も、なるべく多く劇場に足を運んで公演を観た。だから、もう一度文化事業に携わりたいと思っていたのだ。

年末年始にエントリーシートの文章を情熱で埋めたのだが、1月中旬にコロナにかかり、やっぱり受けなくていいや…と気持ちが弱っていたが、締め切り間際に友人3人と飲みに行った際、皆から「出してみなよ」と言われ、出したら1次試験の招待を受けた。

筆記試験やら小論文やら記述式の専門問題やらがあり、手ごたえは全くなかったが、パスし、2次試験の面接も通り、内定をいただいた。とても嬉しかった。
こちらの会社勤務する場合、もちろん引っ越しをする。しかも地元だからってもう実家は無いから、賃貸アパートに住む。

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もう一方の会社はビジネスホテルの正社員で、2月29日当時、住んでいた自宅から引っ越さなくてもよかった。ビジネスホテルを受けたのは、アクセスが良かったことと、長期休みをたくさんとって、海外旅行に行きたかったからである。

この数年で日本にいながら海外に住んでいる友人ができたし、会いに行きたい、そのついでにたくさんアートも観たいと思っていた。

そんな放浪の生活にあこがれていた私だが、結局地元に戻り、文化施設の事務として働くことを選んだ。

そのわけは、

1.間接的にでも日々文化芸術に携わっていたい。

2.「瞬間の集積が時間であり、時間の集積が人生であるならば、私はやっぱり瞬間を信じたい。SAFEでもSUITABLEでもない人生で、長期願望にどんな意味があるのでしょうか」

作家・江國香織さんの短編集『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』のあとがきに2の文章があった。この文章は私にけっこうささった。

私は、海外旅行という長期願望のために、日本にいる間はホテルでひたすら夜通し働くという考え方から、朝から働いて、仕事の合間に職場の人とアートについてちょこっと話して、夕方になれば、こうして文章を書いたり習い事をしたり公演を観に行ったり友人とごはんを食べたりしよう!と思った。そして年1回くらいは海外へ…! 

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外へ外へ!大冒険!から、日々の小さな物語を集める方向へ。
小説をはじめとするアートが、私をこの道に導いてくれた。ありがとう。

そのような日常の中で私は、オフの時間を有効に使いたく、また、アート鑑賞の趣味が高じてアートの勉強を始めたところである。数年後には、出来たら何らかのかたちで企画に携わりたいという”長期願望”もある。個人か団体かわからないけれど。それを頭の片隅に入れておいて、私は日々の小さな物語を展開させていく。
あるいは専門知識と技術を身に付けたら、または何かのきっかけで、海外に行くことにもなるかもしれない。

いずれにしても私の選んだ道は、そしてこれからも選ぶであろう道は、アートの道。